クリスマス2

12月25日、午前一時。街中の仲睦まじきカップルたちもどこかに消え、普段の静かな街並みに移り変わったころ、あのアパートで行われている交流会は逆に白熱さを増していた。
 
今回のメインテーマは”トーク”「面白い話」「怪談」「体験談」などジャンルは問わず、とにかく一人一人盛り上がる話を用意し、お酒を飲みながら誰の話が一番盛り上がったかを決める催しとなっていた。ちなみに今話しているのはあの大家だった。

 彼は顔から陰湿な雰囲気が滲み出ており、それに恥じぬ「人の悪口」と、大家という職権を乱用した「住人の暴露話」を十八番としていた。そんな最低最悪の彼だったが、今まで明石太郎や染瀬清一以外の住民を騙くらかしていただけのことはあり、悔しくもその軽妙な話術はどこか引き込まれる所があった。そして明石太郎の「クリスマスカースト最底辺でもええじゃないか」よりも盛り上がっていた。

明石「くそっ!なんで私の面白話よりも、あんな奴の悪口が盛り上がるんだ」
染瀬「まあ人間なんてそんなものさ」
大家「残念だったな明石君。君とは話術の差がありすぎたようだ(笑)」「それに君のトーク内容はよろしくないな、どこに恋愛最底辺で満足する者がいる。皆モテたいに決まっているじゃないか。共感が出来ないんだよ、共感が」
明石「うけたからっていい気になりよって」

大家「あ、そういえば染瀬君、君には期待しているよ。君の恋バナは私も一目置いているのだから」
明石「もう勝った気でいるな」「染瀬!君の必殺話でケチョンケチョンにしてやれ!」
染瀬「ケチョンケチョンって、趣旨が変わっている気がするが、、」「まあいいや、じゃあそろそろ僕が話しますか」

住民達「おっ染瀬君の番か?」「待ってました!」「いや、楽しみだな~」
大家「ではお手並み拝見といこうか」
明石「いけ!染瀬!」

染瀬「では。あれは僕がまだ小学6年生だったころ、、、」

                   ○○年前
(小学校の教室)

国語の先生「この”夢を見ているようだ”という表現は男の子ではなく、そのお母さんの気持ちを表しており、つまりそれは、、、」”キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン”
生徒「おっ休み時間だ!」
先生「もうこんな時間か」「では今日はここまでにしますが、来週はテストがあるので120P~127Pまでしっかり復習しておくように」
生徒達「はーい」「皆サッカー行こうぜ!」「行こう、行こう」
 この時はクリスマス前で寒い冬の時期だったが、皆シャツ一枚で外で遊んでいた。今思うと信じられないことだ。

生徒達「染瀬も行こうぜ」
染瀬「すまないが、僕は今度のクリスマスに向けて重要な作戦を立てなければならない。なので皆だけで遊んできてくれ」
生徒達「えー、ノリ悪!」「次やる時はキーパースタートだからな!」
染瀬「わかった、わかった」当時僕はサンタさんの正体を掴みかけていた。

染瀬「やはりおかしい。去年も一昨年も欲しい物が的確にプレゼントされている。それにクラスメイト全員に聞いてみても9割は欲しい物だった。確かにサンタさんはすごい人なのだろう、しかしそんなことはあり得るのだろうか。そして一番おかしいのは、サンタさんが僕の欲しい物を知るのは僕の枕元に置いてあるメッセージカードを見てからのはず」

染瀬「ということはサンタさんは”家に着く→メッセージカードを見る→家を出てプレゼントを買ってくる→もう一回来てプレゼントを置く”ということになる、そんなことを一晩で全員にやっているなど不可能だ」「それにそれだとまた別の疑問がでてくる。サンタさんが来るのは早くても時計の針が24時を過ぎたあとのはず、そんな時間に開いているデパートは無いはずだ」

染瀬「つまり考えられるのは事前に僕が欲しい物を知っている、それしかない。ではいつ知ったか、まだ書いてもいないメッセージカードを読むなど不可能。僕の行動を監視していて欲しい物を推測しているにはプレゼントが的確すぎる。去年の合体ロボの欲しかった”色”まで当てたのが良い例だ。とすれば誰かに聞いているのか、、、一体誰に」「僕が欲しい物の細かいところまで話し合うのは友達だがそれは無い。それだとサンタが僕に友達の欲しい物を聞きに来ているはずだ」「あとはお母さんくらいだが、、、ま、まさか!」

染瀬「いやそんなはずは、、しかし毎年クリスマスが近づくと(清一、サンタさんから何貰うか決めたの?)とか聞いてきた気がする」「まずい、僕は実の母親を疑い始めている。これは何とかお母さんの疑念を払拭するため、策を討たねば、、、、こ、これしかない」

染瀬「まず、お母さんが(何を貰うの?)と聞いてきたらお母さんにしか言わない嘘のプレゼントを言う。そしてクリスマスイヴに誰にも見られないようにメッセージカードに本当に欲しい物を書く。これでどちらのプレゼントが置いてあるかによって、お母さんが白か黒か分かるはずだ」「これは誰にも言ってはならない、友達にも先生にも勿論家族にも、絶対に絶対にぜっt」とその時、染瀬の肩を誰かが叩いた。
「ねぇ、染瀬君。何してるの?」
染瀬「うわっ!!!!!!」「びっくりした、根宮さんか。脅かさないでくれ、、」
 
 根宮にか子(ねみや にかこ)は僕と同じクラスの女の子だった。彼女はどちらかというと静かめのグループに属しており、男子とも沢山しゃべるタイプではなかったが、なぜか僕には良く話しかけてきた。多分一学期の頃、席が隣だったからだろう。

根宮「今、お母さんがどうとかこうとか言ってたけど、何のこと?」
染瀬「なに!?聞いていたのか?」「あ、あれは何でもないさ、、、忘れてくれ」
根宮「教えてくれないと、学校でお母さんお母さん言っていたの皆に話しちゃうよ」
染瀬(それはまずい。根宮さんがどこまで聞いていたかは知らないが、もしそれが友達や先生の耳にまで届いたら計画が台無しになってしまう)
染瀬「わ、わかったよ。ただし誰にも秘密を洩らさないと誓えるかい?」
根宮「うん!」

染瀬「よし」「実はね」
根宮「うんうん」
染瀬「僕はサンタさんの秘密を暴いたかもしれない」
根宮「えっ?秘密って?」
染瀬「サンタさんはもしかしたらプレゼントを僕たちの親に聞いているかもしれない、、、」
根宮「、、、それだけ?」
染瀬「!!!」「それだけって、これは世紀の大発見かもしれないんだよ!根宮さんだってサンタさんがどうやってプレゼントを配っているか気になるだろう!?」
根宮「気になるって、、そんなの知ってるよ!というかお母さんがサンタさんじゃない!」

染瀬「、、、、、へ?」(そ、そんなばかな、、でもお母さんがサンタさんだとすると、僕の理論と辻褄が完璧に合致する。というかそれしかない。なぜこんなことに気づかなかったのか)
染瀬「ね、根宮さんはそれをどこで知ったのだ?」「僕みたいに策を立てたのか?」
根宮「そんなことしないよ、普通にお母さんが教えてくれた」「小学校4年生くらいだったかな、お母さんが(今年は何か欲しい物ある?)って、誕生日でもないのに聞いてきたから」「何で?って聞いたら(クリスマスのプレゼントよ)って、それでわかったの」

染瀬「そんな前から」「じゃ、じゃあなぜこの前、根宮さんにプレゼントのことを尋ねた時、教えてくれなかったのさ?」
根宮「だってその時、染瀬君に(根宮さんは去年のクリスマスプレゼントは欲しい物だった?)としか聞かれなかったから、それにこの年でサンタさんの正体を知らない方が珍しいと思うよ」
染瀬「うっ、、本当か?」(いやだとしても僕が実際に確かめてみないと、、)とその時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。「キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン」

根宮「染瀬君」
染瀬(まずは先ほどの策を実行に移すべきだ、そしてその結果次第では、、、)
根宮「染瀬君!!」
染瀬「えっ!?な、なにさ」
根宮「話したいことがあるから、放課後帰らないでね」
染瀬「え?あ、ああ、わかったわかった」(策の見直しなども、考えるべきか、、、やることは山積みだな)
根宮「、、、、」

(そして学校が終わり、下校途中)

染瀬(まずは嘘のプレゼントを何にするかだが、、)
「ぽこっ!!」なにかが染瀬の頭をチョップした。
染瀬「いてっ!な、なんだ!?」
??「なんだじゃないよ!」
染瀬「あっまた根宮さんか、いきなり酷いじゃないか」
根宮「それはこっちのセリフよ!」「”帰らないでね”って、言ったじゃん」
染瀬「え?そうだっけ?」
根宮「ひどい!!」
「ぽこっっ!!!」先ほどよりも強い力で染瀬の頭をチョップした。
染瀬「いたっ、ご、ごめんて、謝るからさ」「そ、そういえば何か話したいことが、あったんじゃなかったっけ?」
根宮「、、、そう」
染瀬「教えてよ」
根宮「やだ!」「、、、」「やだけど、、、話す」

染瀬(取り合えず助かった、、)「それでどんな話なの?」
根宮「え、えーと、、、」
染瀬「、、、」「えーと、、、何?」
根宮「こ、今度の日曜日のクリスマス、、」
染瀬「うん」
根宮「い、いっしょにえい、、えい、、、が」
染瀬「えい?」
根宮「え、映画、、見に行かない、、?」

染瀬「、、、え?」(ど、どういうことだ。これは友達としてか、、いや、それにしてはいつもと雰囲気が違う。男子と話すのは苦手そうではあるが、少なくとも僕に対してこんなに動揺はしないはずだ)(というと、まさかこれは、、、恋愛感情としてなのか!?)
根宮「、、、」
染瀬(まずい、こっちの答えを待っている)(どうしよう。実際のところすごく嬉しいのだが、いかんせんデートなどしたことないし、、、早く答えなければ)
根宮「、、、」
染瀬(あれていうか根宮さんてこんな顔してたっけ?今までちゃんと顔を見ていなかった気がする。よく見るとなんていうか、、すごく可愛いかもしれない)

根宮「、、、」
染瀬(何か根宮さん顔が赤くないか、、、うっ、なんかこっちまで顔が熱くなってきた、、クラスの女の子と友達として話すのは何にも動揺しないが、こういうパターンは初めてだ)
根宮「、、、」
染瀬(でもきっと根宮さんは僕以上に緊張して僕に思いを伝えてくれたはずだ。ここで答えられなければ男じゃない!)

染瀬「ね、根宮さん」
根宮「、、、」

染瀬「伝えてくれて、、ありがとう」
根宮「、、、うん」

染瀬「映画、、、一緒に行こう!」
根宮「、、、うん!」

その時僕は、あれほど考えていたサンタさんのことなど、すっかり忘れていた。

おわり。

                   アパート

住民達「え!!終わり!?」「デートはどうだったんだ!」「教えてくれよ染瀬君!」
染瀬「デートはしたさ。ただ、まぁそのあとにね、、、」
住民達「そのあとだよ、そのあとを知りたいんだよ!」

大家「うるさいぞ!お前たち!!」
住民達「びくっ!!」
大家「わからんのか!?染瀬がここで話を切り上げた真意が!この後、、染瀬は、、染瀬は、、恋に、恋にやぶれたのさ、、、」「思い出くらい良い所で終わらせてやろうぜ!」「なあ明石、お前もそう思うだろ?」
明石「てか、あんたそんなキャラだったっけ、、?」「ていうか意外だったな染瀬、根宮さんとそんな関係だったとは」
染瀬「黙ってて悪かったね」

住民達&大家「、、、え!?」「君達同じ小学校だったの??」
明石「あれ、言ってなかったっけ?」「いや~懐かしいな、あと二人仲が良かった友達がいてさ、四バカ兄弟なんて言われてたな」
染瀬「いや僕はそこには入っていないはずさ、明石君達三人で三バカ兄弟だったはずだ」
明石「あれ、そうだっけ?」「まあいいや、そういえば根宮さんて三学期の頃あまり学校に来なかったよね?」
染瀬「、、、ああ。それは僕が原因さ」
明石「そうだったのか、まあ話したくなさそうだし聞かないけどさ」

住民達&大家「おい!お前たちだけで完結するな!」「俺たちにも教えろ!」

染瀬「まぁ、機会があればね」

                     完

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

恋のお話を書くにはどうやら、まだまだ勉強が必要そうです。また機会があれば挑戦するかもしれません。

それと最後にお嬢様、お坊ちゃま、良いお年をお迎えくださいませ。

今年も終わり

お嬢様、お坊ちゃま。
奥様、旦那様。
ご機嫌麗しゅうございます。
才木でございます。

winter fairも始まって久しく、
お配りする写真も後半へと切り替わりました。
いよいよ今年も終わりという感覚を
ひしひしと感じるところですが、
皆様フォトブックはご覧頂けたでしょうか。

今回は的場と桐島と共に
趣向を凝らしたクリスマスフォトブック。
テーマは「日常」「アンニュイ」といったところで、
楽しげなパーティーと言うよりは、
クールな、
普段はあまりお見せすることのない
使用人達の姿を楽しんでいただけるよう
お作りいたしました。

特典のDVDでは、
使用人達が「クリスマスの思い出」を
語っております。
私と的場で再びインタビュアーを務めまして、
和気あいあいとした内容になってございます。

また大旦那様からお許し頂き、
私と的場のこぼれ話的な
対談ページも収録してございます。
来年に向けて様々なことを計画しておりますが、
まずはこちらをお楽しみ頂けますと幸いです。

今年はヴァンドゥールとしてお仕えを始め、
近頃はあまりギフトショップで
お会いすることは叶いませんが、お声が掛かれば、
いつでも皆様にお仕え出来るよう、
日々勉強しております。

またギフトショップにおいても、
お戻りをお待ちしております。
来年もよろしくお願いいたします。

……

八幡のクレープボックスも、
大変美味しゅうございます。
是非お召し上がりくださいませ。

才木

クリスマス

12月中旬、街は色とりどりなイルミネーションに彩られていた。それに引き寄せられるように辺りにはプラトニックな男女が溢れ、寒風吹きすさぶ冷たい季節に、安らぎの温かさをもたらしていた。

 そんなクリスマスシーズンに期待を寄せる町や人々を余所に、「我、浮いた催しには一切関せず」といった面持ちのアパートが町外れに建っていた。ごつごつとした錆びれた外壁には部屋の窓ガラスが等間隔に設置されており、全ての窓が色あせたカーテンで閉め切っていた。それは多分ここの住人も、このアパートに相応しい、孤独に打ち勝てるもののふしかいないのだろうと一目で感じさせた。ちなみに明石太郎(あかし たろう)もその一人である。

 そんな女っ気が一切無いアパートだが、うっすらと華やかな雰囲気に包まれる時が2つある。

 まず一つ。この辺りには素行の悪い野良猫が多く、近辺のお店の魚を盗んだり、ゴミを漁り散らかしたり、一昼夜喧嘩したりと、この地域の住人たちを困らせていた。そして何故だかは分からないが、偶にアパートの前に多くの野良猫が集まる時がある。そしてニャンニャンゴロゴロと、まるで皆で論争しているかのように鳴きだすのだ。

 住人たちには迷惑な話だったが、その猫たちに興味を惹かれた人々がいた。通行人の女性と子供である。どうやら猫たちがしゃべるように鳴いている姿に心を奪われたらしい。そして誰かが猫に近づこうとすると決まって猫たちは「シャー!!」と威嚇する。しかし彼女たちには全くの逆効果だった。より一層猫をもふもふしたい衝動に駆られ、最終的に猫たちは逃げるか、されるがままにもふもふの刑に処されるのだった。

 それでも猫たちは定期的に集会をし、さらに多くの女性と子供を魅了した。初めはアパートの住民たちは迷惑がっていたが、女性、子供、猫という錆びれたアパートに訪れるひと時のオアシスに惹かれ、散歩をするフリをして見にいった。ほとんどの者が実際は「女性と話したい」という理由だったが、誰一人として歴史的一歩を踏み出せずにいた。少し話が逸れてしまったがこれが一つ目だ。そして二つ目は染瀬清一(ぬりせ しょういち)の存在である。

 
 その日、染瀬清一はこたつでぬくぬくしながら感慨に耽っていた。
「今年もあっという間だったなぁ。しかしこの一年も色々なことがあった」「とりわけ思い出すのが明石君と大家さんとの家賃戦争だな」

 染瀬清一。好きな言葉は「和を以て貴しとなす」彼はすらっとした細めの体型で争いを好まず、人当たりの良さが体中から醸し出されていた。さらに至誠な眼の奥には知的な脳みそが隠れており、先の家賃戦争では、明石太郎の大立ち回りの裏で的確なサポートを施していた。

 ”どんどん”突然、染瀬の住む102号室の扉が叩かれた。
「おーい染瀬、いるかい?」今度は扉の向こうから屈託のない声が聞こえてきた。
「鍵は開いているよー」染瀬がそう言うと、満面の笑みの明石太郎が入ってきた。
「おっ!こたつかい?いいねぇ、私にくれよ」
「残念ながらそれは出来ない相談だ。このこたつは僕が知る限り最もぬくいこたつだからね」「まぁ温まりに来るのはいつでも歓迎するよ」「それより明石君、君の表情から察するに、また何か面白いことでも見つけてきたのかい?」
「そうだった!今年最後の交流会の日時が決まった。是非、染瀬にも参加してほしい」
 このアパートでは年に数回、住民同士の交流会が行われていた。お酒を飲みながら談笑したり、時には麻雀や、鍋をつついたりしていた。最近では改心したアパートの大家さんも参加していた。

「勿論参加するよ。で、日時は?」
「12月24日、23時から」
「クリスマスイブじゃないか。今年も皆、浮いた話はないらしいな」
「あたりまえだ!我々をなめるなよ!」
「いや、自信満々に言われても、、」
「だから今回も染瀬の”必殺話”を皆期待している!」
「分かった、楽しみにしていてくれ!」そう、この染瀬の”必殺話”こそが前述の二つ目であった。

 染瀬清一の良き人柄は少年時代から発揮されていた。それは男友達だけでなく女の子からも評判で、それが時に恋愛感情に進展することもあった。つまり染瀬清一は今でこそ特別な人はいないが、このアパートでは珍しい、人並みに恋愛経験がある男だった。
 そして皆が熱望している”必殺話”とはその体験談を語るいわゆる”恋バナ”であった。

「では染瀬よ、詳しいことが決まり次第また報告しに来るから首を洗って待っていたまえ」そう言うと明石太郎は去っていった。

前編完

※ちなみに、ぬりせの「ぬり」に「塗」ではなく「染」という漢字を使っているのは、私が漢字の読み方を勘違いしていたから、というのはここだけの話です。

終わり。

カウントダウン先生。

お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます。
カウントダウンのお知らせが発表されましたね。
早くお目にかけたくて仕方のうございます!

あまり詳しくはお話できませんが、
今年は新しい事にチャレンジして
かなり練習を重ねております。

内容は申し上げられませんが、
誰と出し物の練習をしたかを少しだけお伝え致します。

その使用人は何と古谷でございます!!

古谷と的場…
少し意外な組み合わせではございませんか?
古谷とは対等に何かを練習したという事ではございません。
古谷先生に私が様々な事を学びつつ練習致しました。

古谷は執事歌劇団に入ってからというもの、自身が学んだ事をとても大切に積み重ねておりました。
最近の事は勿論、昔の事も学びたての様に覚えており、とても丁寧に教えてくれております。
ずっと一人で練習している姿は度々見かけておりましたが、一度教わった事を何回も大事に反芻していたのでしょうね。

そして教え方も非常に優しい!
古谷先生が褒めて伸ばすタイプだとは…。
(いや、別に厳しい冷たいイメージがあった訳ではございませんが)
何となくクールな印象だったので、少々感動した様なリアクションと共に
「すごく上手になりましたね!」
と言ってくれる古谷は新鮮でございました。

会話をする時に緊張するのか照れくさいのか、あまりしっかり目が合わないところもチャームポイントでございます。
一つ一つ言葉を慎重に選びながら教えてくれる姿も、舞台に上がっている時とは違ってギャップがございました。

カウントダウンは毎年お嬢様に楽しいものをお届けする為に邁進してはおりますが、
今年、私にとっては思いのほか使用人の新たな魅力を感じる事ができた良い年末になりました。
あまり詳しい事をお伝えできないのはもどかしゅうございますが、年末の使用人達の宴を是非!
楽しみにお待ち下さいませ。

釣り

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。

最近鑑賞した映画は「恋におちたシェイクスピア」明石でございます。
久しぶりのロマンティックコメディは良いものでございました。

先日、私は海へ行ってまいりました。理由は勿論「釣り」でございます。

”いやぁ~、今回もとても面白うございました”

いったい釣りの何が面白いのか(特に私は海釣りが好きなのですが)
やはり一番は魚が餌に食いついた瞬間でございます。一体どんな魚が掛かったのか?その魚の引き具合や投げたポイントによって「あれかな?これかな?」と想像し、そして釣り上げた時に想像を超えた魚が掛かっていた時が最高の瞬間なのです。
この何が釣れるか分からないドキドキ感は、お嬢様も分かってくださるのではないかと存じます。
(ランダムブロm、、、ゴホン、ゴホン。失礼いたしました)

そして先日の釣りでもこの瞬間がございました!
それはその日一番の引き。少しでも力を緩めると、あっという間に岩陰に逃げられてしまいます。そういう時は釣り竿を90°にして保ち、潜られないようにとにかく我慢!そして魚がおとなしくなった瞬間全力でリールを巻きます。

長いようで短い、魚とのファイト。私はなんとか釣り上げる事に成功しました。
その時釣り上げた魚が下の写真です。

これはアイゴという魚で、防波堤で釣れる魚では比較的大きく(この写真は30㎝前後)力も強いのでアイゴとのファイトはとても面白いのですが、実は釣り人達からは人気が無い魚なのです。

何故かというと一つは臭みが強く食べるなら下処理が必須という事。そしてもう一つ、写真でもわかる通り背ビレ、腹ビレ、臀ビレに鋭いトゲがあり、しかも刺されると激しい痛みに襲われる毒があるからなのです。
つまりアイゴは釣るまでは良いが、釣った後の処理が非常に面倒くさい魚なのです。

しかし「釣った魚を食べる」というのも釣りの醍醐味でございます。なので私はアイゴの下処理をする事にしました。まずアイゴが暴れないように気を付けながら、毒ビレをハサミで切り始めました。もし刺されれば折角の楽しい一日が台無しになってしまいます。
ザクザクとハサミを進め、背ビレが終わると臀ビレを、丁寧に処理していきました。そして何とかトゲに触れることなく切り終わりました。
ここまで来たらあとは内臓とエラと血合いを取り除くだけ!これは召し上がるならどの魚でも、釣った後に出来るだけ早く行うのがおススメでございます。

そんなこんなで楽しい時間も終わり、後片付けを済ませると、私は釣り場を後にしました。
ちなみに生の魚はすぐに傷んでしまいますので、冷やして持って帰りましょう。参考までに私のやり方はクーラーボックスに海水と氷を入れてその中にいつも魚を入れております。

自室に戻ると早速魚を調理いたしました。下処理をしたアイゴの他にカサゴやメジナなど、ぱぱっと三枚おろしにします。そして今回はアイゴをお刺身に、その他を竜田揚げにしました。竜田揚げはその晩頂き、お刺身は一日寝かせることにしました。

お刺身で頂く場合、直ぐに食べるか一日寝かせるかは人それぞれかと存じます。私は食感を楽しみたいなら直ぐに、味に深みを出させるなら一日置くのが良い気がします。

最後になりますが調理したお魚は全部美味しく頂きました!
アイゴのお刺身も意外と臭みが無く、真鯛と比べても遜色ないくらい美味でございました。私だけ頂くのも申し訳ないので、お嬢様にも召し上がっていただきたかったですが、大旦那様の許しが出なかったので、今回は断腸の思いでお刺身の写真を掲載して終わろうかと存じます。

それではお嬢様、失礼いたします。

追伸、写真を撮るのは中々に難しゅうございます。

終わり。

8周年と2歳の富田

いかがお過ごしでございますか。桐島でございます。

さて最近の富田ですが

はい、完全に豆腐ライフを満喫しております。

なんか悔しゅうございましたのでこの何も考えて無い頭を

こうして…

こう!でございます。

見事に情けない顔でございますね。

美味い話には裏がある。これでしっかりと富田も勉強できたかと存じます。

ギフトショップも8周年。お嬢様には美味しい物だけをご用意し続けますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

記念のアソートも美味しい物ばかり、是非お手に取ってみて下さいませ。

…あ、ご安心を、顔をむぎゅとは致しませんので。

エイス・アニヴァーサリー。

お嬢様、お坊ちゃま。ご機嫌麗しゅうございます。
本日でギフトショップも8周年を迎えることができました。
これも一重にいつも足を運んで下さるお嬢様、お坊ちゃまのおかげでございます。

私もギフトショップへ赴いてから、かれこれ5年半が経過致しました。
色々な事がございましたね。

新しいお品物もたくさん増えました。
洋菓子の入れ替わりも盛んになり、2年前からはフットマンスイーツも登場致しました。
今では生菓子もフットマンがご提案させていただいているものが様々ございます。
彼等とはなかなかティーサロンで一緒にお仕事をする事が叶わない間柄ではございますが、
こうして毎月フットマンスイーツを考案してくれる事で繋がりが生まれている感じが致します。

現在並んでいるアクセサリーやソムリエナイフなど、お屋敷オリジナルのグッズもたくさん増えました。
万年筆やトートバッグなど、こちらも使用人が考案したお品物をお出しする機会もございました。

執事歌劇団は多くのイベントを行い、CDやDVDもおお嬢様、お坊ちゃまに喜んでいただいていることかと存じます。
その水面下で八幡率いる歌劇団以外のメンバーも「執事たちの休日」という企画でDVDをお出し致しました。
今月の終わりにも久々に万を持して第3弾がお披露目されますね。
歌やダンスだけではなく、イベントもバラエティができる使用人が増えてまいりましたね。
私と能見の漫才も負けてはいられません!

8年間「ここまで登ってきたなぁ」という実感と、周りの使用人との思い出や絆にじんわりする気持ちと共に「まだまだこれからもっと!」という気持ちが鎌首をもたげてまいります。
ギフトショップでお仕えするバンドゥールの仲間たちと共に更に熱いギフトショップにしてゆく為に日々邁進してまいります。
9年目もお嬢様、お坊ちゃまの温かいご声援を頂戴できればと存じますので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

紅茶のススメ

お嬢様、お坊ちゃま。
奥様、旦那様。
ご機嫌麗しゅうございます。
才木でございます。

先日ティーサロンの日誌を読んでおりまして、
百合野の紅茶の入れ方についての話が
使用人としてもとてもいいものだなと感じました。

私もギフトショップのヴァンドゥールとして、
またティーサロンにて紅茶係を拝命する一使用人としても、
皆様に紅茶の入れ方というものについて
お話させて頂くことも多くございます。

素晴らしい入れ方というものもあるかと存じますが、
的場などがよく申し上げるような
水出しアイスティーにしてしまうというのも
手軽でよろしゅうございますね。
家庭用の一リットル程度のボトルに、
底が見えなくなる程度(グラムとしては通常の2~3倍)を
使用して半日程度放置するだけです。
茶葉をこすのが面倒な場合は、
手に入りやすいお茶出し用のパックなどを
ご使用いただくのもよろしいかと存じます。

とはいえ寒さが増す季節にございますから、
ホットティーを楽しまれたい機会も多いと存じます、
茶葉入りで味を調整するというのは、
百合野がご提案しておりました。
ですので私が紅茶を入れる際に
最低限気を付けていることなど、
認めさせていただければと存じます。

===

1、茶器を温める。

ティーサロンにおいては専用のウォーマーを使用しておりますが、
ご別宅では、簡単に湯通ししていただくのがよろしいかと存じます、

ティーカップやポットに少量のお湯を入れてから、
茶葉の計量に取り掛かりましょう。
軽量後にお湯を捨てていただければ、
程よく温まっていますので、お湯は捨ててください。

紅茶の抽出の適温は、
出来るだけ100度に近い、沸騰したてのお湯と言われます。
茶器を温めることで、あまりお湯を冷まさず抽出出来ますし、
より温かいままで紅茶をお召し上がりいただけます。

余談ですが、この抽出の際の湯温には諸説あります。
使用人間でも意見の分かれるところでして、
使用する茶こしも温める者もおりますし、
抽出時にティーポットにコージーを被せる者も。
修業時代に教官から聞いた話によると、
やかんからティーポットにお湯を注ぐその間にも、
湯温が下がるという考え方もあるそうです。

紅茶というのは嗜好品でございます。
こだわりも人それぞれですし、
ある意味それも楽しみ方の一つでもあります。
興味あれば、色々とお試しください。
(締めのようですが、まだ続きます)

(1.5、沸かしたてのお湯を使用する)

何を隠そう一番面倒(と私は思います)。
この沸かしたてのお湯というのが曲者で、
可能であればやかんを使うのが適切です。

湯を沸かすことで、
程よく水に空気を含ませる目的があるという点。
沸かし過ぎも厳禁なので、
調整がしやすいという点で、やかんがベターです。

(これもステンレスのやかんのほうがいいだとか、
 少し使って馴染んだものがいいですとか、
 色々なことを言う人がいますね)

またこれは百合野も申しておりましたが、
水の鮮度も大事であるという点。
入れる直前に汲んだ水を沸かして、沸かし直しはしない。

先程から申し上げている湯温100度に近い状態は、
「グラグラと煮立った状態」のことを言います。
より正確に言いますと、
5円玉超の大きな気泡がぼこぼこと
浮かび上がってきている状態を指します。

ですが今の世の中電子ケトルなど、
便利なものもありますし
使っていただいてもよろしいかと存じます。
私も部屋で飲む時は、もっぱら頼りにしております。

面倒な入れ方は、
私も含めた紅茶係を務める使用人たちに、
お任せいただいてもよろしゅうございます。
ですので、「1.5」にさせていただきました。

2、茶葉の計量と湯量と抽出時間。

紅茶協会のすすめでは、
茶葉を抽出する場合
【5g/300ml/3分】とされています。
細かいことを申し上げますと
茶葉によって様々あるのですが、
概ねこの通りでよろしゅうございます。

ハーブティーは個々の違いが
茶葉以上に多くございますので、
難しい部分がございます。
ご興味あれば、お尋ねください。

この【茶葉の計量・湯量・抽出時間】が、最も大事です。
これさえ押さえていれば美味しく入ります。
他の部分は、より美味しくする為のものです。
(特に「こだわり」と申し上げているのは
 100点により近づける為のもの)

茶葉の計量について、はかりがあればいいですが、
なければティースプーンで2.5杯弱。
(山盛り2杯と少しです)
目分量なので何度か入れていただいて、
丁度いいあんばいをお探しくださいませ。

湯量に関しては、
一度300mlを計ってティーポットに入れてみてください。
注いだ際の大体の水位が分かりますので、
以降はそれを目安にお試しくださいませ。
実際の湯量は茶葉を含みますので、
お湯のみの水位より、気持ち高めに考えると
上手くいくかと思います。

抽出時間はタイマーなどで計ってください。
抽出後は、茶こしをかませてセカンドポットに。
茶葉は出していただいた方が
余分な渋みやえぐみが出ません。
面倒であれば、茶こし付きのガラス製ポットがお勧めです。

ちなみに使用人の中には、
セカンドポットに移すまでを3分と考える者と、
抽出開始からが3分と考える者がおります。
ここもこだわりポイント! ですね!

3・4、湯を注ぐ、抽出する、セカンドポットに移す。

湯を注ぐ一つとっても、
ジャンピングが云々、やれ優しく注ぐ、
いや高い位置から注ぐべきだ、
いやそんなものは意味はないetc…
様々なことが言われます。

私としては、
香りを立てたいときは
少し高い位置から強めに注ぎ、
ピュアティーなどは優しく注ぐようにしております。
とはいえこれも、
良くなる気がするといった部分ですので、
精進が必要ですね……。

セカンドポットに移す際も、
同じイメージが私にはあるのですが、
伊織などは普通に移しているので、
あまり関係がないのかも。

カップに直接注ぐのであれば、
高めから注ぐと香りは広がりやすいはずです。

この辺りは人それぞれ千差万別の部分ですので、
機会があればまたお話いたします。

===

美味しい紅茶はお楽しみいただけたでしょうか?
長くなりましたが、以上です。
まだまだ若輩者ですのに、語りすぎてしまった気も。
口だけにならないよう精進いたしますね。

是非、使用人たちの考案いたしましたブレンドを、
ご別宅でもお楽しみくださいませ。

あ! お勧めのブレンドですよね!

入れやすいのは圧倒的に、リリスと眠り姫です。
物腰の柔らかい百合野らしい柔らかな味わいと、
どんなに入れ方をしてもしっかりと芯がぶれません。
ストレートでもミルクでもよろしゅうございます。

フレーバードティーですと、
フリグが入れやすくてお勧めです。理由は言わずもがな。

少しこだわって入れてみたい方には、
ストレートなら姫睡蓮・アレキサンドライト。
姫睡蓮はステビアをしっかり入れるのが大事。
アレキサンドライトは私のイメージだと、
ジャスミンの味わいとフレーバーのバランスを
上手く出すのが難しい印象です。

ミルクティーですと、
PSG・メドゥアダラク・ゴシックあたり。
PSGは、当家のブレンドで1・2を争う難しい茶葉(私調べ)。
香りが繊細で消えやすい。しっかり出せたら素晴らしい。

メドゥも雑に入れると香りが弱いので難しさが。
ただチャイティー的な楽しみ方と考えると、
気にしなくてよろしいかも知れません。

ゴシックは甘い香りの部分をしっかり立てませんと、
アイリッシュウイスキーのフレーバーを感じにくいので、
バランスが意外に難しいので、出せると嬉しいです。

……ニルスはどうなのか?
作った本人なので簡単なのです……。
ジュニパーベリーを多めに入れるよう、
意識してみてくださいませ。

止め処ないので、この辺りで。
紅茶のお話も是非致しましょう!

才木

カサゴのギョナサン2

ギョナサン・ブライトストンは泳ぎの研究を再開した。さしあたって次なる目標は曲技飛行ならぬ曲技遊泳の会得だった。

 ギョナサンは「なぜ魚は直線的にしか泳ごうとしないのか」と、昔から思っていた。上下左右ジグザグに泳いでみたり、後方に進んでみたり、可能性は無限大にあるはずなのだ。

 ギョナサンは練習を始めた。そして今回は他の生物の観察も同時に行った。クラゲ、えび、たこ、イカ、色々な生き物の泳ぎ方や動き方を参考にし、次々と新技を開発することに成功した。さらに今までの経験と練習によって、それらの技を簡単に体現できることにギョナサンは深い喜びを感じた。

 この広大な海の中で、水中宙返り、スクリュー、後方一回転、ギョナサン流キューバンエイトを決められる魚はギョナサン以外一匹もいなかった。

 ある日ギョナサンがいつものように練習に勤しんでいると、ある変化に気づいた。若いカサゴ達がこちらを見ていたのだ。勿論、蔑むような目で見られることは昔からあったが、それとは様子が違うようだった。好奇の眼差し、さらには憧憬の念を抱く者もいた。

 その数は日に日に多くなっていった。10匹、20匹、30匹と、、、ギョナサンは思った「曲技遊泳はエンターテインメント性に富んでおり、傍から見てもきっと楽しいものなのだろう」
 
 そしてある時、一匹の若いカサゴが話しかけてきた。「僕にもその技術を教えてください」ギョナサンは驚いた。「ダメでしょうか?」彼はギョナサンの返答を待たずに尋ねた。

「、、、わかった、いいだろう。しかし曲技遊泳は極めてきけn、、」「待ってください!!」
 なんと、そのやり取りを聞いていた他の若いカサゴ達も一目散に集まってきたのだ。

「僕も!」「俺も!」「私も!」
「待て待て落ち着け」「いいか君達、曲技遊泳は極めて危険だ。つまり練習は相当ハードになると予想される。それでも耐えられるのか?」ギョナサンは冷静に答えていたが、内心は少し喜んでいた。初めて自分以外に泳ぎを極めたいと思うカサゴに出会えたことに。

「はい!もちろんです!」そしてギョナサンによる泳ぎの指導が始まった。

 初めはヒレの使い方や水平遊泳など基礎から教えていった。最初は地味な練習に不満を漏らす者も現れたが、そんな声も次第に無くなっていった。若さゆえか皆真面目に練習し、新しい課題を求め、どんどん覚えていった。

 ギョナサンは嬉しかった。自分の教えた事を熱心に取り組み、広まっていく。なにより自分と同じように泳ぐことが楽しいと思うカサゴ達がこんなにいたことに感激した。

 数週間後。ここら一帯の若いカサゴ達は、曲技遊泳を身につけていた。彼らは一匹一匹個性があり、時にはギョナサンをも驚かせるカサゴもいた。

 例えばクリス・マートンは曲技遊泳の才能が著しく、最も難易度が高いギョナサン流キューバンエイトを最速で成功させ、今ではギョナサンさえも考えつかなかった技を開発していた。

 やんちゃなアニー・キーディスは最もギョナサンに怒られた生徒と言えよう。しかし彼はあの最速遊泳記録を樹立した様子を隠れて見ていたらしく、それに憧れてスピードばかりを追及していた。アニーが自分の持っている記録を塗り替えた時は悔しかったが、嬉しくもあった。

 そして一番初めにギョナサンに声をかけたトム・ヨースターはとても勇気があるカサゴだった。海流を使った訓練など誰もが躊躇してしまう場面で、先陣を切って取り組んでいた。またギョナサンの補佐を率先して行っていた。トムとはこの期間で一番話したかもしれない。

 ギョナサンは一人で訓練していた時とは違う感動で溢れていた。そして最も充実した日々を過ごしていた。

 ギョナサンの指導が板についてきた頃、群れの長から呼び出された。「多分、最近の活動が評価されたのだろう」ギョナサンは嬉々として長のもとに向かった。
 
「来たかギョナサン・ブライトストン」
「族長、おまたせしました」そこには長以外にも幹部と呼ばれる大人たちも集まっていた。
「今回君を呼んだのは他でもない最近の活動についてだ」
「はい!」ギョナサンの声は歓喜に満ち溢れていた。

「ギョナサン、今行っている活動を即刻中止しなければ、君をこの縄張りから永久に追放する」

ギョナサンは頭が真っ白になった。
「え!?いったいなぜですか?」
「君の活動は今後群れに危険を及ぼすと判断されたのだ」
「、、、、」
「つまりこのまま活動を続けると、、、」ギョナサンは放心状態になりながら、長の話を聞いていた。

15分後
「先生、どうかされました?」いつもと雰囲気が違うギョナサンにトムが心配そうに声をかけた。
「、、、トムか、いや何でもない。すまんが今日は自習練習をしててくれ」
「わ、わかりました」トムはあえて何も聞かずに快諾した。
「悪いな」

 その夜ギョナサンは眠れずにいた。

 ギョナサンは落ち着きを取り戻していたが、そのせいか「長の言っていたこともあながち間違っていないな」と、感じていた。

 長が言うには、このまま自由にたくさんのカサゴ達が泳ぎ回っていたら、サメなどの天敵に見つかってしまう恐れがある。ギョナサンと共に早く泳ぐ術を身に付けた者はいいだろう。しかし生まれたての幼い子供や長のような老魚はそんなわけにもいかない。
 さらにはそんな生物がやってきたら他の種族にも影響を及ぼし、我々だけではなく、この楽園そのものが危険にさらされる。

 少し前ならそんな事に聞く耳を持たなかった。しかし、トム達との出会いでギョナサンの心も大きく変化しており、それが彼を迷わせていた。
 期限は明日の朝。ギョナサンは決めなければならない。活動を中止し、普通のカサゴ達のように生きるか、それとも永久追放か。

 次の日

「族長!いったいどういうことですか!?先生が、いやギョナサンが永久追放されたというのは」
「聞いたかトムよ」

「あんなに偉大な方を追放するなど、おかしいじゃないですか!」
「もう決まったことだ。彼はもう帰ってはこない」
「、、、」
 その後、長から全てを聞いたトムは、共に泳ぎを学んだ仲間たちに伝えた。

「そうか、そんなことが」
「仕方ないとはいえ、酷い話じゃないか」
「先生も僕たちに相談してくれればよかったのに」

「でも、先生は何か新しい目標ができたんじゃないかな」
「トム、それはどういうことだい?」
「ほら族長が言っていた、先生の最後の言葉」

”この泳ぎで世界を見て回ります”

「だから僕たちも先生から学んだことを、なんとかして伝えていこうよ!」

 ギョナサンから学んだ生徒たちはギョナサンの意思を他のカサゴ達にも伝えるよう努力した。ギョナサンのことを完全に否定する者があまりいなかったこともあり、それは徐々に広まっていった。
 そして数年後、ついに長や幹部たちを説得し「法と制限の範囲であれば自由に泳いでもよい」と自由への一歩を踏み出した。

 時を同じくして世界中の海域で、あるカサゴの噂が流れ始めた。

後編完


                    

           われらすべての心に棲むカサゴのギョナサンに

後日譚

 今日もカサゴのポコピーは泳ぎの特訓をしていた。

 ポコピーはあるカサゴの伝説を信じ、いつも一生懸命泳いでいた。しかし周りのカサゴ達はそんな彼を、いつも小馬鹿にしていた。

「おいポコピー!今日もくねくね泳ぎの練習かい?笑」
「そんなことして何になるってんだい!笑」

「うるさいぞ!君たちは伝説のギョナサン・ブライトストンを知らないのか!」ポコピーは精一杯声を張り上げて言った。

「お前そんな伝説、信じているのか?」
「馬鹿な奴だなぁ笑」
「大人たちはみんな言っているぜ、あれは昔からある、おとぎ話だって」

「そんなことない!伝説は本当さ!」

「どこの世界に回遊魚より速く泳げるカサゴがいるってんだ!」

「いたさ!それにギョナサンは速いだけじゃないぞ」
「例えば、え、えーと、、、そうだ [きょくげいおよぎ]だってできたんだ!こんな風に」ポコピーはしっぽをピョコピョコ動かしジグザグに泳ごうとした。

「わはははは!」
「またくねくねしてるぞ!」

 ポコピーが必死に泳いでいると”ゴツン!”何かに頭をぶつけた。
「いてててててて、、あっ、ごめんなさい」どうやら別の泳いでいたカサゴにぶつかったらしい。

「ポコピー、そんな変な泳ぎをしているからぶつかるんだよ笑」
「でも、あんなカサゴ見たこと無いな。それに体中ボロボロだぞ」そのカサゴの鱗は剥がれており、ヒレも所々傷ができていた。

 ポコピーも驚いていたが、なぜかその姿に懐かしさを感じていた。
「あのー、どこかであったことありますか?」ポコピーが聞いた。

「いや」「君は泳ぎの練習をしていたのかい?」
「は、はい。あのギョナサン・ブライトストンのようになりたくて」

 するとそのカサゴは静かに笑った。そして次の瞬間、目の前から一瞬で消え、いつの間にか水面ギリギリまで移動していた。

 遠くで見ていたいじめっ子のカサゴ達は何が起きたのか分かっていなかった。しかしポコピーは確信していた。
「今、絶対に泳いでいた!!!」「あ、あなたは何者なんですか?」大声でポコピーは聞いた。
 
 すると今度は海底にものすごいスピードで泳ぎ始めた。しかも途中で前後左右、何回転も回り、渦巻き状にも泳いでいた。そしてまた一瞬の内にポコピーの前まで来ていた。

「どうやったのですか!?」
「今のはただの戯れさ。カサゴの限界を突破し、途中で[曲技遊泳]を組み合わせただけのこと。君もやってみるかい?」
「はい!」そしてポコピーはある確証と共にその者の名前を尋ねた。

「私かい?ギョナサン・ブライトストン。ギョナサンとでも呼んでくれ」

                       完

ハロウィンのすすめ

お嬢様、お坊ちゃま。
奥様、旦那様。
ご機嫌麗しゅうございます。
才木でございます。

皆様、ハロウィンはお楽しみいただけておりますか?

この度は「お屋敷」がテーマでございます。
三カ国の使用人達がティーサロンに集い、
パーティーが催されるというストーリーです。

しかしハロウィンに集う使用人達でございますので、
一筋縄では参りません。
使える主人のの幸せを守る為、
荒事も辞さない輩共にございます。

そんな彼らが一堂に会する時、
穏便に済むような謂れなどございますでしょうか?
それぞれのお屋敷の誇りをかけて、
三つ巴【Triangle】の争いが巻き起こります。

……

そんな使用人達の姿を!
収めた一冊をご用意しております!
それが
【Swallowtail Halloween Photobook「TRIANGLE」】
にございます!

この度は、
ハロウィンの配信イベントも
合わせてお楽しみいただけます。
フォトブックとして仮装姿を楽しむもよし。
配信の副読本として楽しむもよし。
一粒で二度美味しいものに仕上がっておりますよ!

なお配信の内容なのですが……。 
使用人達のゲーム対決ですとか、
彼らの日常の記録をミニシーンとして撮影いたしましたり
様々、楽しんで頂けるようにお作りしております。

それぞれのキャラクターの設定などを
フォトブックにて予習いただきますと、
より楽しめるかと存じます。

数に限りもございますので、
是非お早めにお手に取ってくださいませ!

色々と申し上げましたが、
使用人一同、皆様にお楽しみいただけるよう、
精一杯考えたハロウィンでございます。
お楽しみ頂けますと幸いです。

才木