8
明石太郎の居住アパートから一駅ほど離れたところに大きな廃工場がある。
目の前には川が流れており、また、そばの橋を渡った先には民家やら商店街やら、人の住む町が広がっている。
川には魚をはじめとした生き物がわんさか生息しており、さらには人の住む地域のごみ箱を漁れば、猫にとっての食材が豊富に落ちている。
つまりこの人の寄り付かぬ廃工場は猫にとって格好の住処なのである。
そしてそんな楽園とも言える廃工場を住処としているのが〝牛鬼親分〟率いる丑組なのである。
開きっぱなしの大きなシャッターから廃工場内に入っていくと、大きく開けた空間が広がっている。天井からは錆びたフックがいくつか垂れ下がっており、三方の壁際にはもう動かないであろう機械が点在していた。機械の周りには機材や鉄材がそこかしこに転がっていた。
そして空間の中央には壊れた平ボディ型のトラックが置かれており、荷台には猫たちが拾ってきたボロいクッションがたっぷりと積まれ、その上に丑組の長〝牛鬼親分〟がふんぞり返って座っていた。
ちょうど工場内では丑組の集会が開かれていた。
「えー、現在先鋒部隊が寅組の縄張りに進行しており、数か所にて戦いが勃発しております。中でもドングリ野原での戦いが大きく、相手方を率いているのは寅組幹部の一人〝蟹丸〟とのこと」
丑組の下っ端がそう伝えると、牛鬼親分はぶくぶくに太った大きな体をゆっくりと起こし、口を開いた。
「ドングリ野原での戦況は?」
「やや押されておりますが、そこにはジャックさんが向かっておりますので、到着次第逆転するかと」
「よしよし」
「ジャックにはそんな雑魚部隊など早く蹴散らして力を見せつけろと伝えろ!ただし寅組の本陣には攻め入るなよ。あくまで作戦通りにとな」
「はっ」
さらに牛鬼親分は質問を続けた。
「その他の状況はどうなっておる?」
今度は別の下っ端猫が答えた。
「はい。まず手筈通り決戦の噂を各方面に流しており、そちらはほぼほぼ完了したとのこと。さらに戦力の補充に関しては、噂やエサにつられて、かなりの野良猫が丑組に集っております。」
その答えに満足したのか、牛鬼親分は醜悪な表情で笑いはじめた。
「ぐっふふふふ。あのくそ忌々しい目の上のたんこぶを、やっとこの手で屠れるわい」
「よし、お前ら!決戦は今日ドングリ野原!日が落ち人間共が寝静まったらじゃ!この戦いで虎ノ進及び寅組を徹底的に潰し、奴らの縄張り一帯を丑組のものとするのじゃ!」
「うおーーー!!!」
牛鬼親分の啖呵で工場内に地響きのような歓声が鳴り響いた。
9
明石太郎は負傷した猫たちを運べそうなものを探していた。
「ええーと、確かこの辺に……おっ!あったあった」
明石太郎はアパートの物置小屋で木製のリヤカーを見つけた。
「あとはこの姿で引っ張れるかどうかだが……」
持ち手の部分に両前足をかけ、バランスを崩しながらもなんとか後ろ足だけで立ち、持ち手を上げた。
「おっとっとっと、難しいけどなんとかなりそうだ」
ガラガラとリヤカーを引っ張りながら小屋を出ると、先ほど助けたハチワレ猫に話しかけた。
「おい!そこの猫君よ、倒れている君の友達をこれに乗せたいんだが、手伝ってくれないか?」
すると目を大きく見開き驚いた表情でこちらを見ていたハチワレ猫が、ハッとその言葉に気づき、こちらに駆け寄ってきた。
「これに……ですか?」
「ああ。これなら一度に運べるだろ」
「運べるって、どこへです?」
明石太郎はリヤカーを一旦置いて答えた。
「君たちは寅組だろ?アジトがあるのではないか?」
「えっ!なぜ寅組って知っているんですか!?」
ハチワレ猫は少し警戒した表情で聞いた。
「まあちょっとな。おっと、だが勘違いしないでくれ。さっきも言ったけど私は君を助けにきた仲間だ!」
ハチワレ猫はその言葉を聞くと俯いた。何かを考えているようだ。
そして、しばらくすると何かを決心したように口を開いた。
「あなたはもしや〝目覚めし猫〟ではないですか?」
「ん?なんだそれは」
「あ、いや……」
ハチワレ猫は当てが外れたのか少し悲しそうな顔をしたが、またすぐキリっとした表情に戻り明石太郎に尋ねた。
「あ、あの僕たちを助けてください!」
「あたりまえだ!そう言ったろう」
「い、いや違うんです」
そう言うと今何が起きているのかを話しはじめた。
今この辺りを支配している二大勢力「寅組」と「丑組」が争っていること。
丑組にはジャックという恐ろしい猫がいること。
そしてそのジャックに対抗すべく、このハチワレ猫トンカツは〝とある猫〟を探しているという。
「なるほど。で、その猫が見つからないから代わりにそのジャックと戦ってくれということか」
「は、はい」
「そのジャックというのはそんなに強いのか?」
「僕も見たことはないのですが、普通の猫では絶対にありえない〝武器〟というのを使ってくるそうです。それで何匹もの寅組の方々がやられてしまったそうで……」
「ふむ…」
明石太郎はそうは言っても所詮は猫だからなぁと思い、取り敢えず二つ返事で了承した。
「ありがとうございます!」
「ではまず僕たちのアジトにご案内します!」
そうして明石太郎とトンカツは、倒れている仲間の猫たちをリヤカーに乗せ、寅組のアジトに歩を進めた。
終
おまけ
明けましておめでとうございます、お嬢様。
久しぶりのブログ、久しぶりの「変身」ということで、よく分からなかったお嬢様もいらっしゃるかと存じます。
そんなお嬢様には是非、変身1〜変身6を見ていただければと存じます。
また、続きもなるべく早く書き上げる所存でございます。
これからもお楽しみいただければ幸いでございます。
終わり。