お正月

 

「去年の夏の暑さが嘘のようにお正月の夜は冷え込むな」

染瀬清一(ぬりせしょういち)は、前を歩く二人の痴話喧嘩を聞きながら、ふとそう思った。

 

「おい!夜の神社が狙い目だなんて嘘じゃないか」

 

「ん?嘘?おいおい、何を言っているんだい明石くん。灯篭の明かりで照らされた境内の趣が分からないのかい?参拝客だって我々を合わせても10組ほどだ。年明け早々おしくらまんじゅうなんて嫌ではないか?」

 

「このあほっかすが!そんなことはどうでもいいのだ。最も大事なことは活気ある屋台でしょうが!」

 

「屋台?君はお子ちゃまか」

 

「なにー!」

 

先日の釣りの一件以来、度々廻令蔵(まわりれいぞう)が二人の元へ遊びに来ていた。そして明石太郎とは会うたびに、こんなやり取りを繰り返していた。

よくも毎度毎度争いの火種が落ちているなと、染瀬は思った。

 

だが、この痴話喧嘩が大喧嘩に発展することはなかった。むしろ最終的には肩を組んで仲良しこよしだ。

 

ちなみに染瀬はこれが始まるといつも黙って二人の争いを聞き、僕の考えはどちらに近いかなぁ、などと考える。なぜならば……

 

「おい、やめとけ、たろちゃん。ますます分が悪くなるぞ」

 

「うるさい!」

「おい、染瀬はどちらの意見に賛同するのだ!」

 

やはりこの展開になったか。

 

これもいつものことだ。

徐々に明石君が劣勢になっていき、声こそ荒げているものの、助けを乞う目つきで僕に意見を求めてくる。

 

しかし、残念ながら廻君の意見の方が僕の考え方に近い。今回もそうだ。

 

「う~ん、廻君に賛同するかな……」

 

「……」

 

「火を見るより明らかだったな」

 

「あきらめん」

 

「ん?何か言うた?」

 

「次は…」

 

「次は?」

 

「おみくじ勝負だ!」

 

 

別に勝敗をつけなくとも「みんな違ってみんな良い」でいいのでは?と、染瀬は思ったが、どうやら明石太郎は、どうしても廻令蔵をぎゃふんと言わせたいらしい。

 

 

 

「お!これじゃないか。明石君、おみくじあったよ」

 

「……」

明石太郎は返事もせずに通り過ぎていった。

 

「あれ、たろ先生?おみくじ勝負はやめたのですかい?」

 

「君らは先に引いてていいぞ。私は先にお参りをしてくるので」

 

「必死ですな」

 

「違うわ!まずは神様にお参りするのが礼儀だろうが」

 

「よく言うわい。昼間だったら屋台に直行するくせに」

 

「ぐぬぬ」

 

確かにそうだと染瀬清一も思った。

そして結局三人ともお参りを先にすることにした。

 

「さてさて、お賽銭箱にいくら入れるべきか。やはり5円か50円、いや奮発して500円という手もあるな……。染瀬はいくらにするのだ?」

 

「僕は5円かな。毎年そうだし」

 

「ふむ。じゃあ50円か500円だな」

明石太郎は染瀬清一にもおみくじ勝負で勝ちたいらしい。

 

「れい坊。貴様はいくらだ!」

 

「私は44円にしようと思う」

 

「は?気でも触れたか!?」

 

「いや。ただ、このお賽銭というものの効力が実際どれほどのものか気になってな」

 

「罰当たりすぎるだろ」

 

「そうだよ。それに試すにしてもわざわざ悪い方に合わせなくてもいいじゃないか」

染瀬清一もこれに関しては明石太郎に同意した。

 

「いやいやこれでいいのさ。人間誰しも良い方向には努力するだろ?悪い方向に努力することは中々ない。つまり、55円だの777円など入れて、その結果良いことが起きても、それが神様のおかげなのか自分の努力の賜物なのかが分かりずらいのだ。だから敢えて44円を入れるのだ」

 

「廻君はやはり変わった人だ」

 

「染瀬よ、まあいいじゃないか。自ら敗北の道へと進んでいるのだから」

明石太郎は嬉しそうだった。

 

「よし!決めた。私は50円にしよう」

 

そして各々決めた金額で参拝をし、ついにおみくじ勝負のときが来たのであった。

 

 

 

ついにこのときが来た。

最近はあの似非知識人のせいでさんざん辛酸をなめさせられ、毎回毎回敗北を味わっていた。が、それもここまで。奴はなにを血迷ったのか44円という縁起の悪い金額を納め、今最もついてない男へと変貌した。こんな奴におみくじ勝負で負けるはずがない!

今こそ廻令蔵、そしておまけの染瀬清一に正義の鉄槌を!

 

 

「へー、色々なおみくじがあるんだね。見てごらん明石君。恋愛運専用のおみくじなんてものもあるよ」

 

染瀬の言うとおり、恋愛や健康などそれぞれの運を占うものや、動物や傘型の可愛らしいものなど、そこには多種多様なおみくじが置いてあった。

しかし、ここでそれらのおみくじを引くのは愚の骨頂である。

なぜならば、そういったおみくじは往々にして良いことしか書いていない可能性があるからだ。運に差をつけている今、それを引くのは得策ではない。

 

「おい染瀬。そんなナンパなおみくじではなく、この従来からあるおみくじで勝負するぞ!」

 

「動物おみくじも気になるけど、まあそっちにしようか」

 

「れい坊もよいな!」

 

「私はどれでも構わんぞ」

 

「よし!(ばかめ!これで貴様らの勝率は0%となったのだ!)」

「ではさっそく」

 

「スッ」

「スッ」

「シュバッ!!」

 

(くっくっく。楽しみ楽しみ!)

「よし、れい坊。貴様から開けてみろ」

 

「私か?」

「どれどれ……………う~む」

 

(ひひひ。難しい顔をしとるぞ。これはてんで話にならんな!)

「どうよどうよ。見せてみい」

 

「ほれ」

 

〈吉〉

 

「はっはっは!やはり大したことない!吉?上から4~5番目くらいか?」

 

「ん?なにを言っているのだ?吉は上から二つ目だぞ」

 

「へ?」

 

「地域にもよるが、基本的には大吉の次に位置している」

 

「じゃ、じゃあなぜ、難しい顔をしていたのだ!?」

 

「いや~、去年より1ランク下がってしまったのでな」

 

「……」

上から2番目だと、ふざけるな!これでは大吉を引かなければ負けてしまうではないか!

こんなばかなことが………

 

「やったーー!!」

 

こ、今度はなんだ!?

 

「おお!染瀬君やったな、大吉ではないか!」

 

(なにーー!?このもやし男が大吉?お前が似合うのは末吉だろうが!)

(くそっ!とにかく大吉だ!大吉なら負けはない!たのむっ!神よ!)

 

〈凶〉

 

「ぴぎゃああああああ!!!」

 

「すごいよ明石君。僕の大吉より珍しいよ!」

 

「どうせ”ばかめ!これで貴様らの勝率は0%となったのだ!”とか、考えていたのだろ」

 

「う、ぐっ……」

 

 

どこでどう間違ったのか。

私の努力の結晶は一体どこに消えてしまったのか。

いやそもそもこれは努力だったのか?

2人とも不思議がっていたことだろう、50円入れただけで勝った気になっていた私の姿に。

 

「明石太郎よ見てみい、君のおみくじの”争い事”の欄を」

 

〈争い事 ~争いごとまけなり~(勝負に負けるので争わないようにしましょう)〉

 

「やかましいわ!!」

 

 

 

おまけ1

 

お嬢様、あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 

取り敢えず一月のブログを無事掲載でき、ひとまず安心でございます。

今年こそは、ひと月一本のペースを目標に頑張る次第でございます!(多分!)

 

 

おまけ2

 

私は、今年も楽しみなことが多くございます。

 

気になる映画が数本上映される予定だったり、一番好きな小説家の新刊が発売されたりと様々ございます。

また、サッカー観戦も現在進行形で開催されているアジアカップを始め、注目の試合がいくつもございます。

 

お嬢様も機会がございましたら、是非日本代表を応援してくださいませ!

 

 

おまけ3

 

私が今年、実際に引いたおみくじでございます。

 

 

明石太郎ほどではございませんが、なんとも微妙な結果でございます。

 

 

終わり。