5
「おい、起きろ。起きんか、明石太郎よ」
「ん、んー……」
私は聞き覚えのある”ふわふわもこもこ”の声で目が覚めた。
「私は一体………ん?」
周りを見渡すと辺りは真っ白な空間に包まれていた。
「どこだここは!?」
「確か……猫になって、はしゃいで……それから……痛っ」
ふいに頭の上部に痛みが走った。
「あ、そうだ!大家に吹き飛ばされてブロック塀にぶつかったんだ!そして気絶して……ま、まさか私はそのまま天国へと…」
「阿呆か!そのくらいで、おっちぬものか」
不意に後ろの方から声がした。
「誰だ!?」
振り向くと、この空間よりもさらに真っ白なふわふわもこもこの毛玉が鎮座していた。そして、もそもそと動きながらこちらに近づいてきた。
「な、なんだあれは……」
「もう吾輩を忘れたのか。今朝、夢の中であったばかりであろう」
そう言うと、不意にその毛玉がぶるぶると震えだした。そして「モフン!」と、勢いよく猫の頭と手足が飛び出した。
「どうだ?この顔を見ても思い出さんか?」
「……」
私はとても印象的なその光景を見てもその猫が一体何者か思い出せなかったが、その声だけは聞き覚えがあった。
「あんたは一体誰なんだ!?それにこの空間は……。と、というか私は猫と普通に会話しているのか!?」
「ふむふむ、どうやらまた一から話さないといけないようだのう」
するとその毛玉はゆっくりと香箱座りをし、厳かな雰囲気でしゃべり始めた。
「まず、吾輩は神様じゃ」
「……へ?神様?」
「さよう。まあ神と言っても、死神だがのう。そしてこの空間だが、実は貴君の本体はまだ気絶しておるのだ。この空間は精神世界。夢の中と似ておる世界だ」
さすがの私も面を食らわざるを得なかった。そして目の前の死神は続けて話し始めた。
「貴君は今、猫だ。猫が猫と会話するのは当たり前だ」
………確かにその通りだ。
「しかし、まさか死神が猫の姿をしていたとは……」
「意外か?」
「あ、ああ。想像では髑髏の仮面に大きな鎌を持っている姿だったから…」
「まあそういう死神もおる」
「え!?」
「死神といえど千差万別。見た目も違ければ、人間に与える罰も違うのだ。ただ一つ、愚かな人間に対して裁きを下すということ以外はな」
「愚かな人間?」
「そうだ。つまり人を殺めてしまった人間だ」
そしてこの死神は、人類が未だ到達していない領域。
‟(人を殺めてしまった者の)死後の世界”について話し始めた。
………なるほど
どうやら私はとんでもない話を聞いてしまったようだ。
つまりこの世界には本物の死神がいて、殺人を犯したものをあの手この手で地獄のような場所へ連れていったり、罰を与えたりする。まったくもって非現実的な話だ。だが、こんなヘンテコな空間で話をしているという事実からも間違いなくこれは真実なのだ。
しかし、そうなると自ずと疑問点が一つ浮かび上がるのがお分かりだろうか?
この猫型の死神は愚かな人間を猫の姿に変える罰を与えるらしい。まあそれはかまわない。そんなメルヘンな死神がいるのも悪くない。
だが、なぜ私が選ばれたのだ。当たり前だが私は断固として殺人など犯してはいない!
「おいっ。なぜ私が猫の姿にならなければならないのだ!」
「ふむ、やっと気づいたか明石太郎よ。そこが本題だ」
「なに!」
「まず貴君が猫になったわけ。それはな……」
「そ、それは……?」
「吾輩のミスだ」
「なにーーー!」
このとき、もし私が猫の姿でなければ、目の前の毛玉がいかに死神といえど、毛を全てむしり取っていたことだろう。
「ふざけるな、どうしてくれるのだ!」
「まあまて。吾輩の力を持ってすれば、元に戻すことなど造作もない!だが……。少しばかり時間が必要なのだ」
「時間?」
「そうだ。変身後24時間は元に戻すことができない。つまり明日の明け方にならなければ人間の姿には戻れないのだ」
「なに!?」
「そしていいか、ここからが重要だ。もし、それまでに貴君が死んでしまったら元には戻れず、猫の姿のままあの世行きだ」
終。
追記
今回もご覧いただきありがとうございます。ついに変身の続きが掲載されました!しかし、「変身3」からどのくらい経ったのでしょうか?恐ろしくて前回の日付が見れません。
そしてこのペースで書き続けたら一体何年後に終わるのでしょうか……
とにかく、期待してくださるお嬢様に喜んでいただけるよう頑張る次第でございます!!
おまけ1
2023年も、あと僅かでございます。
思い返すと今年も素敵な一年でございました。
「白イルカのクッキー」や「Paper Moon」をお手に取ってくださったり、とある10周年記念や、とある3歳児誕生のお祝いをしてくださったりと、お嬢様には感謝してもしきれないかと存じます。
来年もお嬢様が楽しんでいただけるよう邁進する所存でございます。
それではお嬢様、良いお年をお迎えくださいませ!
おまけ2
「良いお年をお迎えくださいませ!」と、元気よく挨拶させていただいたのですが、一つ思い出したことがございましたので、少々書かせていただきます。
ご存じのお嬢様もいらっしゃるかもしれませんが、先日とある使用人達と釣りに行ってまいりました。
お屋敷の使用人と釣りへ行くのが初めてだったということもあり、普段とは違う楽しさもございました。
今回はどちらかというとサポートに回っていたのですが、あれだけ真剣に楽しく釣りをしていただけるなら、永遠と補助に徹していてもいいと思えるほどでございました。
また、メンバーの一人は釣りの経験が私よりも遥かに豊富で、学ぶところが多くございました。今回学んだことは次の釣りにて生かす次第でございます。
また、いずれ彼らと足を運びとうございます。
そして次こそはDVD化し、お嬢様にも楽しんでいただけたらなあと存じます。
終わり。