「……あ、あつすぎる」
「釣りにおいて、天候というものはモチベーションに関わる。雨風の強い日が最もやる気を削いでくるが、容赦ない日差しもまた釣り人の心をへし折るというもの…」
「こんなことなら染瀬のことは無視して部屋で療養してるのだった!」
実はこの日”五月病”に罹った明石太郎は、染瀬清一の助言により、気晴らしに海へ釣りに来ていた。
ー1週間前ー
「病気だ病気だ!僕死んじゃう!」
明石太郎は大げさに叫びながら102号室の扉を叩いた。
ドンドン!「おい、いるか染瀬」
すると、ものの数秒で扉が開き、腰にタオルを巻いた染瀬が出てきた。
「どうした明石君?」
「どうもこうもない!病に罹った!」
「えっ!」「ど、どこか痛むのか?」
「体がだるくて、やる気が起きないんだ!」
「倦怠感ってこと?熱はあるのかい?」
「いや、どっこい平熱さ。体調も特に悪い所は見当たらない。しかし、やる気が起きない!」
「なるほど…」
染瀬清一は少し考え、おもむろに口を開いた。
「……それ、五月病じゃない?」
「五月病!?そんなわけあるかい!」
もっと重篤な病だ!と、言わんばかりにぐちゃぐちゃと喋りはじめた。
「私の心身の疲れを知っておるのか!体は日々の勤めで疲れ、将来や日本の行く末を思うと心は沈んでいくばかり。最近はメランコリーな明石君って呼ばれているんだぞ!」
染瀬清一は呆れ顔をしていた。
「……まあ、取り敢えず元気そうだし、また何かあったら訪ねてきてくれ」
「じゃ!」
「おいっ!!」
「無二の親友が困っているというのに、あっさりしすぎではないか!?」
「もっと親身になれ!頼っているのだぞ!この鬼!悪魔!与太郎が!!」
「わかったわかった!わかったから待て!取り敢えずお風呂の続きを終えたら親身に聞くから」
「そうだ。それでこそ親友だ!」
得意げな表情の明石太郎をコンセントの抜けたこたつに入れ、染瀬清一はぺたぺたと浴室へと戻っていった。
~数分後~
「おい、起きろ明石君」
「お…やあ、上がったか我が友よ」
「なにが我が友だ、ちゃっかりこたつをぬくくしよって」
「てへへ」
「まあ良い」
「考えたんだが少し自然の空気でも吸ってくるっていうのはどうだい?」
「例えば海釣りとか」
「ほう、釣りか!それはよいかもしれない」
「しかし私、釣り竿なんて持ってないぞ」
「そこは任せてくれ」
かくして時間は現在に戻るのだった。
前編完
おまけ1
まずはお嬢様、ここまでご覧いただきありがとうございます。
楽しみにお待ちいただいていたお嬢様、大変お待たせいたしました。
少々短い文章ではございますが、楽しんでいただけたなら幸いでございます。
おまけ2
「前編完」
この文字に不安を募らせたお嬢様もいらっしゃるのではないでしょうか?
なぜなら、現状おまけコーナーのネタと化している「変身」が一向に更新されていないからです。
しかし、そこはご安心あれ!
今回の物語はそこまで長い文章ではなく後編で完結する予定でございます。
また、もうすでに半分くらい書き終えておりますゆえ、次の掲載までさほど時間はかからないと存じます。(……恐らく)
で、ございますので大船に乗った気持ちでお待ちくださいませ!
(もちろん変身も頑張ります)
終わり。