日本一になるために。 その2

 

(前回からの続き)

8合目から9合目へ。

 

もはや引き返すも地獄と悟った私は上を目指すことにいたしました。

 

傾斜は更にきつくなり、手を使って登らなければならない所もございました。

腕の力も使わなければ登れないなんて…っ!

 

「もうダメだ!」

 

と思いきや、以外と手を使いながら登った方が負担が分散されて足は楽だ!

辛くないわけではございませんが、幾分か楽にすいすい登っていけました。

 

するとすぐに9合目の山小屋が見えてまいりました。

おお!もう終わりが見えてきたぞ!

 

 

と思いきや。

 

「…8.5合目だと!」

 

 

何でそんな言葉があるのか!

ぬか喜びにも程があります!

 

意気消沈しながらも歩を進めるしか選択肢がございません。

もう体がバキバキなのは今ここで引き返しても同じ。

ならば達成感の可能性がある方へ進むしかない!

 

精神を破壊されつつノロノロ登りながら、何とか9合目に辿り着きました。

もう心身ともに限界でございます。

ゆっくり休んで英気を養いたいところではございますが、

あまり休んでしまうと最早動き出すことができなくなってしまう気がいたします。

 

疲弊した体に鞭打って9合目から10合目(頂上)へ。

 

 

 

…もうこの辺りの記憶は曖昧でございます。

いや、ちょっと前の事だから忘れてしまったなどではなく。

私は富士山を登るマシンと化しておりました。

断片的な記憶ではゾンビぐらいのスピードで半死半生の状態で登っていた記憶がございます。

 

しかしそんな私の記憶がハッキリしてくるタイミングが訪れました。

 

「頂上が見える…!」

 

もうここまで来たら行くしかない!

日本一高い山の頂上に手が届きそうだ!

 

徐々に元気になってきた私は少しペースを上げ

(とは言ってもゾンビが人間になった程度のスピードですが)

終点に向かって歩を進めてまいりました。

 

そして遂に!

 

 

登頂いたしました!

 

この満足感たるや!

「言葉にできない!」という月並みな言葉も出てしまいますが、

同時に「写真に収められない!」とも思いました。

眼前に広がる景色のスケールが大き過ぎてとても収まりきらないのです。

360度のパノラマビューでございます。

私は達成感を胸におにぎりを頬張りました。

これも月並みですが非常に美味しい!

苦労して良かったと思える瞬間でございました。

 

しかしそんな充足感も束の間。

 

「寒い!」

 

天気は快晴でしたが富士山の頂上は0℃近くまで冷え込んでおり、

10分もすれば汗をかいた体は凍てついてしまうのでした…。

 

そろそろ下山するか…と思ってふと脇を見やると…。

 

「ほ、本当の山頂があるだとお!」

 

そう。10合目は山頂ではなく「剣ヶ峰」という真の山頂があるらしいのです!

先程の「8.5合目」といい、富士山に心揺さぶられる瞬間ばかりでございます。

ぬか喜びの宝石箱でございます。

 

…どうする?考えている時間はそう長くない。

時刻は既に15時を回っている。夕方に差し掛かっております。

日が出ているうちに下山しないと暗くなったら危険という話もある…。

 

これは…

 

行くしかない!

 

煽られることに耐性のない私は剣ヶ峰を目指す事にいたしました。

ここで下山してしまったら

「でも本当の山頂までは行ってないんだよなあ…」

という思いが私の胸を渦巻くことでしょう。

 

剣ヶ峰まで至るルートは富士山の火口をなぞりながら進むルートでございます。

この火口がまた大きい!巨大でございます。

本当に写真では表現できない規模の火口で、一周するのも一苦労でございます。

傾斜も場所によって険しいですし、足元の岩も溶岩石で非常に固いのです。

肌に触れたらすぐに切ってしまいそうでございます。

手袋が必要という方がいらっしゃるのも頷けるほど鋭うございます。

足場も場所によっては狭く、5秒気を失ったら滑落してしまいそうな場所もございました。

 

ゴツゴツした足場の悪い中を進むこと30分ほど。

剣ヶ峰の頂上も制しました!

 

 

 

う~む。伝わりきらない…。

道は険しいですが是非一度いらっしゃっていただきたいものでございます。

 

さて、快晴だった空が徐々に夕焼けてまいりました。

急いで下山しなくては!

 

火口をなぞりながら逆行し、10合目からは下山ルートに入ります。

登山ルートよりも緩やかな、別コースが存在するのです。

真っすぐ険しい登山ルートに対して緩やかな道がずっと蛇行している景色でございました。

 

「これは楽でいいなあ」

 

と思いずっと下りました。

だんだん陽は沈みつつあります。

真っ暗になるまでには下山しなければ…!

ずんずん下っていったところ私はあることに気が付きました。

 

「すそう…須走ルート…?登りは確か吉野ルートだったような…」

 

正しくは「すばしり」ルート。

私は途中で枝分かれした道に気付かず、誤ったルートを選択してしまったのでございます。

もうだいぶ陽が沈んでいるのに!

私は親切な登山者の方に簡単な挨拶を済ませ、分岐点がどこかを尋ねました。

 

「大丈夫です。1合ほど登ったらルートを切り替えられますよ」

 

1合ほど登ったらだと…!

もう本日のノルマは達成したと思ったのに、まだ登らせると言うのか!

 

「…仕方がない。登ろう」

 

限界を超えた疲労に絶望感もあり、摺り足ほどの速度でしか引き返すこと叶いませんでした…。

 

何とか分岐点に辿り着いた私はまた緩やかな道を下りはじめました。

どんどん辺りは暗くなってまいります。

そしてよくよく考えればわかる事ですが、緩やかな分道のりが長い!

「登りはこのぐらいだったから時間的にこのくらいかな」の2倍時間がかかります。

富士登山は計画的に!

 

5合目に辿り着くまでにすっかり辺りは真っ暗になってしまいました。

 

 

当然街灯も何もないので本当に真っ暗でございます。

道も崖も見えないので第六感で歩くしか他ございません。

もうダメだ!と思ったその時、辺りに灯りが灯り始めました。

 

ヘッドライトを装着した登山者達がライトを灯していたのです。

これはもう、縋りつくしかない!という事で、ヘッドライトを装着した登山者の方に同行させていただき、何とか時間をかけて下山することができました。

もう時刻は20時をまわっておりました。

自分の足で下山はいたしましたが、もはや半遭難状態だったのではないかと存じます。

 

何やら悪口ばかり書いてしまった気もいたしますが、登頂した時の達成感は他の何にも代え難い経験でございました。

私は無茶して杖なし、休憩ほぼなしで強行いたしましたが経験者の皆様はストックをつきながらゆっくり登山をお楽しみになっていらっしゃいました。

また、二日に分けてゆっくりと登山するコースもあり、夜に8合目まで登って山小屋に泊まってから朝に登頂し、朝日を拝む「ご来光」というものもあるのだそうでございます。

お嬢様がもし行かれる際は是非ゆっくりと富士山をお楽しみになるのが良いかと存じます。

 

あと天候は重要でございます!

私も雨が降ってしまったら登頂できなかったかもしれません。

足場も悪くなりますので天候チェックは重要でございます!

 

人生は一度きりでございます。

一度は富士山に登ってみては如何でしょうか?

 

長くなってしまいましたが、本日はこれにて。