12月25日、午前一時。街中の仲睦まじきカップルたちもどこかに消え、普段の静かな街並みに移り変わったころ、あのアパートで行われている交流会は逆に白熱さを増していた。
今回のメインテーマは”トーク”「面白い話」「怪談」「体験談」などジャンルは問わず、とにかく一人一人盛り上がる話を用意し、お酒を飲みながら誰の話が一番盛り上がったかを決める催しとなっていた。ちなみに今話しているのはあの大家だった。
彼は顔から陰湿な雰囲気が滲み出ており、それに恥じぬ「人の悪口」と、大家という職権を乱用した「住人の暴露話」を十八番としていた。そんな最低最悪の彼だったが、今まで明石太郎や染瀬清一以外の住民を騙くらかしていただけのことはあり、悔しくもその軽妙な話術はどこか引き込まれる所があった。そして明石太郎の「クリスマスカースト最底辺でもええじゃないか」よりも盛り上がっていた。
明石「くそっ!なんで私の面白話よりも、あんな奴の悪口が盛り上がるんだ」
染瀬「まあ人間なんてそんなものさ」
大家「残念だったな明石君。君とは話術の差がありすぎたようだ(笑)」「それに君のトーク内容はよろしくないな、どこに恋愛最底辺で満足する者がいる。皆モテたいに決まっているじゃないか。共感が出来ないんだよ、共感が」
明石「うけたからっていい気になりよって」
大家「あ、そういえば染瀬君、君には期待しているよ。君の恋バナは私も一目置いているのだから」
明石「もう勝った気でいるな」「染瀬!君の必殺話でケチョンケチョンにしてやれ!」
染瀬「ケチョンケチョンって、趣旨が変わっている気がするが、、」「まあいいや、じゃあそろそろ僕が話しますか」
住民達「おっ染瀬君の番か?」「待ってました!」「いや、楽しみだな~」
大家「ではお手並み拝見といこうか」
明石「いけ!染瀬!」
染瀬「では。あれは僕がまだ小学6年生だったころ、、、」
○○年前
(小学校の教室)
国語の先生「この”夢を見ているようだ”という表現は男の子ではなく、そのお母さんの気持ちを表しており、つまりそれは、、、」”キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン”
生徒「おっ休み時間だ!」
先生「もうこんな時間か」「では今日はここまでにしますが、来週はテストがあるので120P~127Pまでしっかり復習しておくように」
生徒達「はーい」「皆サッカー行こうぜ!」「行こう、行こう」
この時はクリスマス前で寒い冬の時期だったが、皆シャツ一枚で外で遊んでいた。今思うと信じられないことだ。
生徒達「染瀬も行こうぜ」
染瀬「すまないが、僕は今度のクリスマスに向けて重要な作戦を立てなければならない。なので皆だけで遊んできてくれ」
生徒達「えー、ノリ悪!」「次やる時はキーパースタートだからな!」
染瀬「わかった、わかった」当時僕はサンタさんの正体を掴みかけていた。
染瀬「やはりおかしい。去年も一昨年も欲しい物が的確にプレゼントされている。それにクラスメイト全員に聞いてみても9割は欲しい物だった。確かにサンタさんはすごい人なのだろう、しかしそんなことはあり得るのだろうか。そして一番おかしいのは、サンタさんが僕の欲しい物を知るのは僕の枕元に置いてあるメッセージカードを見てからのはず」
染瀬「ということはサンタさんは”家に着く→メッセージカードを見る→家を出てプレゼントを買ってくる→もう一回来てプレゼントを置く”ということになる、そんなことを一晩で全員にやっているなど不可能だ」「それにそれだとまた別の疑問がでてくる。サンタさんが来るのは早くても時計の針が24時を過ぎたあとのはず、そんな時間に開いているデパートは無いはずだ」
染瀬「つまり考えられるのは事前に僕が欲しい物を知っている、それしかない。ではいつ知ったか、まだ書いてもいないメッセージカードを読むなど不可能。僕の行動を監視していて欲しい物を推測しているにはプレゼントが的確すぎる。去年の合体ロボの欲しかった”色”まで当てたのが良い例だ。とすれば誰かに聞いているのか、、、一体誰に」「僕が欲しい物の細かいところまで話し合うのは友達だがそれは無い。それだとサンタが僕に友達の欲しい物を聞きに来ているはずだ」「あとはお母さんくらいだが、、、ま、まさか!」
染瀬「いやそんなはずは、、しかし毎年クリスマスが近づくと(清一、サンタさんから何貰うか決めたの?)とか聞いてきた気がする」「まずい、僕は実の母親を疑い始めている。これは何とかお母さんの疑念を払拭するため、策を討たねば、、、、こ、これしかない」
染瀬「まず、お母さんが(何を貰うの?)と聞いてきたらお母さんにしか言わない嘘のプレゼントを言う。そしてクリスマスイヴに誰にも見られないようにメッセージカードに本当に欲しい物を書く。これでどちらのプレゼントが置いてあるかによって、お母さんが白か黒か分かるはずだ」「これは誰にも言ってはならない、友達にも先生にも勿論家族にも、絶対に絶対にぜっt」とその時、染瀬の肩を誰かが叩いた。
「ねぇ、染瀬君。何してるの?」
染瀬「うわっ!!!!!!」「びっくりした、根宮さんか。脅かさないでくれ、、」
根宮にか子(ねみや にかこ)は僕と同じクラスの女の子だった。彼女はどちらかというと静かめのグループに属しており、男子とも沢山しゃべるタイプではなかったが、なぜか僕には良く話しかけてきた。多分一学期の頃、席が隣だったからだろう。
根宮「今、お母さんがどうとかこうとか言ってたけど、何のこと?」
染瀬「なに!?聞いていたのか?」「あ、あれは何でもないさ、、、忘れてくれ」
根宮「教えてくれないと、学校でお母さんお母さん言っていたの皆に話しちゃうよ」
染瀬(それはまずい。根宮さんがどこまで聞いていたかは知らないが、もしそれが友達や先生の耳にまで届いたら計画が台無しになってしまう)
染瀬「わ、わかったよ。ただし誰にも秘密を洩らさないと誓えるかい?」
根宮「うん!」
染瀬「よし」「実はね」
根宮「うんうん」
染瀬「僕はサンタさんの秘密を暴いたかもしれない」
根宮「えっ?秘密って?」
染瀬「サンタさんはもしかしたらプレゼントを僕たちの親に聞いているかもしれない、、、」
根宮「、、、それだけ?」
染瀬「!!!」「それだけって、これは世紀の大発見かもしれないんだよ!根宮さんだってサンタさんがどうやってプレゼントを配っているか気になるだろう!?」
根宮「気になるって、、そんなの知ってるよ!というかお母さんがサンタさんじゃない!」
染瀬「、、、、、へ?」(そ、そんなばかな、、でもお母さんがサンタさんだとすると、僕の理論と辻褄が完璧に合致する。というかそれしかない。なぜこんなことに気づかなかったのか)
染瀬「ね、根宮さんはそれをどこで知ったのだ?」「僕みたいに策を立てたのか?」
根宮「そんなことしないよ、普通にお母さんが教えてくれた」「小学校4年生くらいだったかな、お母さんが(今年は何か欲しい物ある?)って、誕生日でもないのに聞いてきたから」「何で?って聞いたら(クリスマスのプレゼントよ)って、それでわかったの」
染瀬「そんな前から」「じゃ、じゃあなぜこの前、根宮さんにプレゼントのことを尋ねた時、教えてくれなかったのさ?」
根宮「だってその時、染瀬君に(根宮さんは去年のクリスマスプレゼントは欲しい物だった?)としか聞かれなかったから、それにこの年でサンタさんの正体を知らない方が珍しいと思うよ」
染瀬「うっ、、本当か?」(いやだとしても僕が実際に確かめてみないと、、)とその時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。「キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン」
根宮「染瀬君」
染瀬(まずは先ほどの策を実行に移すべきだ、そしてその結果次第では、、、)
根宮「染瀬君!!」
染瀬「えっ!?な、なにさ」
根宮「話したいことがあるから、放課後帰らないでね」
染瀬「え?あ、ああ、わかったわかった」(策の見直しなども、考えるべきか、、、やることは山積みだな)
根宮「、、、、」
(そして学校が終わり、下校途中)
染瀬(まずは嘘のプレゼントを何にするかだが、、)
「ぽこっ!!」なにかが染瀬の頭をチョップした。
染瀬「いてっ!な、なんだ!?」
??「なんだじゃないよ!」
染瀬「あっまた根宮さんか、いきなり酷いじゃないか」
根宮「それはこっちのセリフよ!」「”帰らないでね”って、言ったじゃん」
染瀬「え?そうだっけ?」
根宮「ひどい!!」
「ぽこっっ!!!」先ほどよりも強い力で染瀬の頭をチョップした。
染瀬「いたっ、ご、ごめんて、謝るからさ」「そ、そういえば何か話したいことが、あったんじゃなかったっけ?」
根宮「、、、そう」
染瀬「教えてよ」
根宮「やだ!」「、、、」「やだけど、、、話す」
染瀬(取り合えず助かった、、)「それでどんな話なの?」
根宮「え、えーと、、、」
染瀬「、、、」「えーと、、、何?」
根宮「こ、今度の日曜日のクリスマス、、」
染瀬「うん」
根宮「い、いっしょにえい、、えい、、、が」
染瀬「えい?」
根宮「え、映画、、見に行かない、、?」
染瀬「、、、え?」(ど、どういうことだ。これは友達としてか、、いや、それにしてはいつもと雰囲気が違う。男子と話すのは苦手そうではあるが、少なくとも僕に対してこんなに動揺はしないはずだ)(というと、まさかこれは、、、恋愛感情としてなのか!?)
根宮「、、、」
染瀬(まずい、こっちの答えを待っている)(どうしよう。実際のところすごく嬉しいのだが、いかんせんデートなどしたことないし、、、早く答えなければ)
根宮「、、、」
染瀬(あれていうか根宮さんてこんな顔してたっけ?今までちゃんと顔を見ていなかった気がする。よく見るとなんていうか、、すごく可愛いかもしれない)
根宮「、、、」
染瀬(何か根宮さん顔が赤くないか、、、うっ、なんかこっちまで顔が熱くなってきた、、クラスの女の子と友達として話すのは何にも動揺しないが、こういうパターンは初めてだ)
根宮「、、、」
染瀬(でもきっと根宮さんは僕以上に緊張して僕に思いを伝えてくれたはずだ。ここで答えられなければ男じゃない!)
染瀬「ね、根宮さん」
根宮「、、、」
染瀬「伝えてくれて、、ありがとう」
根宮「、、、うん」
染瀬「映画、、、一緒に行こう!」
根宮「、、、うん!」
その時僕は、あれほど考えていたサンタさんのことなど、すっかり忘れていた。
おわり。
アパート
住民達「え!!終わり!?」「デートはどうだったんだ!」「教えてくれよ染瀬君!」
染瀬「デートはしたさ。ただ、まぁそのあとにね、、、」
住民達「そのあとだよ、そのあとを知りたいんだよ!」
大家「うるさいぞ!お前たち!!」
住民達「びくっ!!」
大家「わからんのか!?染瀬がここで話を切り上げた真意が!この後、、染瀬は、、染瀬は、、恋に、恋にやぶれたのさ、、、」「思い出くらい良い所で終わらせてやろうぜ!」「なあ明石、お前もそう思うだろ?」
明石「てか、あんたそんなキャラだったっけ、、?」「ていうか意外だったな染瀬、根宮さんとそんな関係だったとは」
染瀬「黙ってて悪かったね」
住民達&大家「、、、え!?」「君達同じ小学校だったの??」
明石「あれ、言ってなかったっけ?」「いや~懐かしいな、あと二人仲が良かった友達がいてさ、四バカ兄弟なんて言われてたな」
染瀬「いや僕はそこには入っていないはずさ、明石君達三人で三バカ兄弟だったはずだ」
明石「あれ、そうだっけ?」「まあいいや、そういえば根宮さんて三学期の頃あまり学校に来なかったよね?」
染瀬「、、、ああ。それは僕が原因さ」
明石「そうだったのか、まあ話したくなさそうだし聞かないけどさ」
住民達&大家「おい!お前たちだけで完結するな!」「俺たちにも教えろ!」
染瀬「まぁ、機会があればね」
完
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
恋のお話を書くにはどうやら、まだまだ勉強が必要そうです。また機会があれば挑戦するかもしれません。
それと最後にお嬢様、お坊ちゃま、良いお年をお迎えくださいませ。