夏の思い出

※前回の続きは後日掲載いたします。

                  明石太郎14才 夏

「ゴク、ゴク、ゴク、、、プハ~!夏はラムネに限るな!」
その日、明石太郎(あかしたろう)は地域の小学校で開催されている夏祭りに足を運んでいた。
普段ならこんな暑い季節に外出などしないのだが、お祭りは別であり理由は幾つかあった。

中学生時代は少し大人ぶるところがあり「風物詩を重んじる老齢のような楽しみ方が格好良し。だから祭りも楽しむのがカッコいいのだ」という持論を展開し、「14才にもなって祭りではしゃぐなんてダサいぜ!」という思春期特有の流れに一石を投じていた。
他にも屋台のお菓子が大好きだったり、あわよくば淑女の浴衣姿を拝見したい等の思いもあったが、あえて話す必要もないと心の内に秘めていた。

「次は何を頂こうかなぁ」
 明石太郎はラムネを飲み終えると、子供の笑い声や太鼓の響く音を楽しみながら、ゆっくりと屋台を見て回った。
 かき氷、杏飴、チョコバナナ、焼きそばと、見るもの全てが美味しそうに感じ、次は何を食べようかと迷っていると、ふと嫌な予感がした。
「そういえば先ほどラムネを買った時、ガマツグがぺちゃんこになっていたような、、、」
 ガマツグとは明石太郎のガマ口財布であり「お金をたくさん入れ膨らませると可愛いくなる」と評判の~財布っくらシリーズ~第一弾である。ちなみに第二弾の「フグ太郎」までは人気であったが、メーカーが何を血迷ったのか第三弾で「血ではなく、金を吸うマダニのダニエル」を発売してしまい、全国の女性ファンから苦情が殺到し、あっけなくシリーズの幕を閉じた伝説の財布でもあった。

 まあそれはさて置き、明石太郎である。ポケットから出してみると、やはりしぼんでおり、中には100円玉が三枚しか入っていなかった。
「これはまずい。ここで消費していては大事な戦いができなくなってしまう」明石太郎はお祭りに行くと、必ずやる事があった。
 そう、金魚すくいである。

「金魚すくいは大事だ、背に腹は代えられん!大人になったら欲しい物を片っ端から買おう。その時にはガマツグもふっくらしているはずだ」
そう自分に言い聞かせ、金魚すくいの方向へ歩き出した。

「着いたか、、、戦場に」
明石太郎はキリっとした目つきに変わっており、金魚のプールをじっくりと見渡し一番良い席に座ると、おもむろに300円を取り出した。
「おっちゃん、三回分頼むぜ」
そう言うとポイを3つ受け取り、大きいサイズの金魚を探し始めた。
「あの赤いのもいいが、こっちの黒いのもよさそうだ」
何匹かに狙いを定めると、ポイを金魚に近づけはじめた。
 数センチの所まで寄せるとポイの動きを止め、「ここで焦ってはいけない、金魚の位置が水面ギリギリに来るのを待たなければ」と、機を伺った。
15秒ほどするとターゲットが徐々に上がってきた。
「今だ!」
明石太郎は素早く、そして水面を揺らすことなくポイを金魚の下に忍び込ませ、水を掬いすぎないよう細心の注意を払った。
 ゆっくりポイを持ち上げる。金魚は気づいていないようだ。「いける」そう思いボウルを金魚に近づけようとした直後、
 
「とれた!!」

 隣の小学生の声が辺りに響き渡った。その瞬間、ポイの上の金魚が暴れだし、穴を開けプールへと逃げてしまった。
「このあんぽんたんが!!!」と、喉まで出かかったが、平静さを装った。
「相手は小学生だ、ここは我慢して次に切り替えよう」そう決心をした。
しかしターゲットの金魚は落ちた後、プールの反対側まで逃げてしまっていた。
「仕方ない、並んでいる人達もいるし、近くの金魚を掬って今日は帰ろう」
そうして明石太郎は残りのポイで、赤い金魚を2匹と黒い金魚を1匹掬い、持ち帰った。

 家へ帰ると、早速ビニール袋から金魚鉢へと移し替えた。
「まだまだ修行が足りんな。しかしよく見ると小さいサイズも可愛いではないか」
 
「これも良い夏の思い出だな」明石太郎は満足した。

終わり。