「感動した!!!」
それが映画「七人の侍」を見た明石太郎(あかしたろう)の率直な感想であった。
「頭でっかちの気取った評論家が見る映画かと思っていたが考えを改めなければいけないな」
七人の侍といえば言わずと知れた映画界の巨匠「黒澤 明」氏の代表作であり、「志村 喬」や「三船 敏郎」といったそうそうたる俳優陣を擁した大作時代劇で、日本史上最高の映画との呼び声も高い一作である。そんな作品に明石太郎が影響されるのは自然の流れであり、侍になりたいと言い出すのはそう時間がかからなかった。
「男に生まれると『侍に憧れたりする感情が訪れる』という事を聞いたことがあるが、とうとう私、、、、いや拙者にもその時期が来ようとは!」
勿論、明石太郎の言う「その時期」というのは健全な男性であれば14才頃に来るどころか、卒業しなければいけない感情であり、お酒が飲める年齢で来てはいけない代物という事を、この男は知らなかった。
「やはり侍といえば『髷を結い』『刀を携え』『恰好は着流し』であるが、結ったことも着物も刀も持っていない」
「まぁ着物の代わりは甚平を着るとして、、、髷は結ったことなどないからなぁ」
「取り合えず固めて縛ればなんとかなるだろう」と、おもむろに整髪料を取り出し髪全体をガチガチに固め、前も後ろも横もかき上げたあと、頭のてっぺんで縛った。
「へへっ、中々の出来栄え」
髷というより玉ねぎにしか見えなかったが明石太郎は満足だったらしい。
「あとは刀だが、そういえばあれがあったな」そういうと、この玉ねぎ侍は押入れの奥から木刀を引っ張り出した。
「修学旅行の思い出がこんなところで役に立つとは、しかしこれで侍の完成だ!」
全ての装備を整え、見た目も心も侍と化した明石太郎の瞳には一切の曇りはなく、勧善懲悪の志でこの世の悪に立ち向かうのであった。
「不逞の輩を滅ぼすために、いざ参る!!!」
その後の物語の顛末は、書いていて恥ずかしくなってきたので割愛させていただきますが、日本には軽犯罪法とい
うものがございますので、この後の展開は想像に難くないかと存じます。
終わり。
※明石太郎と明石は別人でございます。