最近は風が強まり、日差しも暖かくなり、
少しずつでございますが春が近づいて参りました。
いかがお過ごしでございましょうか、環でございます。
ついこの間、屋敷の庭を散歩しておりましたら
梅の木を見つけました。
花びらも満開に近い状態で咲いておりまして
それはもう綺麗なものでございました。
この景色を写真にでも収めておきたいところでございますが、
あいにく私はカメラを持ち合わせておりませんでした。
なので形に残すのはあきらめようと思った矢先。
「写真なら任せてください!」
伊達だ。
「写真なら任せてください!」
二度言った。
「あぁ、それじゃ頼む。」
普段、後輩とあまり接しないので、
少し動揺しながらも彼に返事を返す私。
その瞬間。
彼は静かにカメラを構えてシャッターを切った。
なぜかポーズがプロっぽい。
なんだろう。
普段彼にまつわる話は筋肉の話しか回ってこないのだが、
そこに存在しているのはなんとも繊細な一人の人間だった。
人は見た目で判断してはいけない。
そんな風に彼を見て思った。
「撮りました」
私に向ける笑顔はなんとも無邪気で、
まるでいたずら好きな子供のようだ。
そんな彼に私の心も少し優しくなり、
つい素直に反応してしまった。
「うん、ありがとう」
いつの間にか素敵な後輩が私の周りには
出来ていたのだ。
春に気づくのは遅すぎたのかもしれない。
もっと早く気づいてあげればよかったな。
「確認します?」
彼の声にうなずく私。
そして覗き込むカメラの画面。
そこには庭のベンチに横たわる無防備な
荒垣の姿が映し出されていた。
なんとも間抜けな顔をしている。
「これいいの取れましたね!」
無邪気な彼を見て私は思った。
やはり意思の疎通って難しいなと。
そんな春にはまだ遠い日の話でございました。