お嬢様、季節の風の香りはお好きでございますか?
夕日が沈む頃、お屋敷周りの見回りをしようと外へ出ると、
季節の香りをまとった風に包まれます。
とても心地よいその香りは季節や天候によって表情を変え、
日々私を楽しませてくれます。
仲間のフットマンにこの話をすると、首を傾げられてしまいますが、
感性豊かなお嬢様には理解していただけると信じています。
風の香りを味わうと、幼い頃の記憶が蘇ります…。
実は私、
とある日に行き倒れたらしく、倒れているところを大旦那様に助けられ、このお屋敷に招かれました。
しかし、その時に受けたショックのせいか、それ以前の記憶が曖昧なのでございます。
ただ、記憶を取り戻せそうになる瞬間がございます。
風の香りに包まれた瞬間。
お屋敷の大きく暖かい湯船で体を温めた瞬間。
懐かしいような、耳馴染みのある音楽を聴いた瞬間。
とても心地よく、記憶が蘇りそうになります。
なぜこんなにも、お嬢様に御給仕をする事や
仲間のフットマンといる事が幸せなのか……。
自分の事にも関わらず分からない事だらけでございます。
しかしながら先日、そんな自分の事で分かった事がございました……!
(つづく)