寒を楽しむ散歩道

めくる暦も残りが知れて参りました。
そこかしこで年の終わりが叫ばれておりますが、忘れて
ならないのは迎える年の準備でございます。
終わりと始めがともにやってくるこの時期、師走とは
よく言ったもので、わたくし共フットマンのみならず、
執事連もまた足早に廊下を急ぐ姿を目にいたします。

にぎやかさを増す街路にお疲れでしたら、温かな紅茶で
一息お休みくださいませ。
いつでもお帰りをお待ちしております。
伊織でございます。



新年始めのお出かけと申しますと、お嬢様方は何を連想
されますでしょうか。
初詣、それとも百貨店の初売りでございましょうか。
来年はどちらから参りましょう。
世事にはうといわたくしのこと。百貨店のあれこれは
如月にまかせるとし、わたくしからは初詣のご提案を
させていただくといたしましょう。

氏神様に詣るのは毎年のことでございますが、時には
のんびりと散歩をかねて、七福神詣などはいかがでしょう。
わたくしは谷中の七福神を巡ったりするものですが、谷中に
限らず、方々へ散策に出るのもよろしいですね。
谷中の七福神では御朱印をいただいてまわりますが、
所によれば、ちいさな宝船に御分体をいただいてまわる
なんて筋もございます。

わたくしが谷中を巡りますのは、何よりこの御朱印を
いただく為でございます。宝船ではいけないのです。
それは――初夢のためでございます。

実はこの御朱印、もしくは画に描いた宝船でもよう
ございますが、良い夢見のために枕の下に敷くのです。
ですが、敷くだけではいけません。まじないがあるのです。

「長き夜の遠の眠りの皆目覚め、波乗り船の音の良きかな」

この言葉を唱えた後、枕を三度叩いて眠るのでございます。
簡単でございましょう。
ひらがなになおしますと、

「ながきよの とおのねむりの みなめざめ
           なみのりふ(む)ねの おとのよきかな」

となります。
お気づきですか。実は回文なのです。
濁音を清音にいたしますと、上から読んでも下から読んでも
同じ文になるのです。
回文には終わりがない文章と考えられ、ほかの言葉が入る
間がない――魔が入れないと、魔除けの効果があると聞きます。
昔の方はよく考えたものです。

爺むさいお話しとなってしまいましたが、年の初めの縁起の
ためと、お試しいただくのも一興かと存じます。
お嬢様の新年に、七福と言わず、万福が訪れますように。