宇宙こま

何ごとも決めつけてかかるのは良いことではないと、学童の
時分に教わったことを思い出しました。
早くに教わる物事ほど肝要なこともございません。

しかし、今年の暑気のなんと頑ななことでしょう。
暑気を払えと、柳蔭のひとつもあおりたいものでございますが、
さすがにお嬢様にはお持ちするわけには参りませんか。
冷やし飴か酸梅湯でもお持ちいたしましょう。
ご機嫌いかがでございますか。
伊織でございます。

甘いものが苦手なわたくしではございますが、暑いさなかに
すする葛きりは格別なものがございます。
見目も涼しく、くちびるを滑る感触の心地よさに黒蜜のやさしい
甘み。日本茶ばかりでなく、あえてヌワラエリアや上質の
ラプサンスーチョンなどと合わせていただくのも面白いものでは
ございませんか。

夏には葛きり、冬には葛湯と、一年を通して一息つかせてくれる
葛ではございますが、その花の時期はちょうど今時期にございます。
いまだ日差しの力強さを写し、一面を塗りつぶす緑は雑草のようにも
見えましょうが、緑を突きやぶる藤色の角を見つけられれば、それが
葛の花であると知れます。

お嬢様は葛に白色の花もあることをご存知でいらっしゃいますか。
わたくしは先に申しました藤色の花色しか存じておらず、緑の中に
白い角を見つけた際には、まったく見知らぬ花ではないかと、図鑑を
ひいて驚いたものです。

当たり前という言葉は便利なものではございますが、わたくしは
その言葉の意味がいぶかしくてなりません。
自らの道理だけを信じるということも、疑問を感じずにはいられません。
まさか各務が、あれほど回転するなどとは、それまでのわたくしの
信じた「当たり前」では捉えられなかったのです――。