緋毛氈 気取れど悔やむる 捨て扇

「本日は俳句の日でございます」

――人まねはいけませんね。気恥ずかしくてなりません。
本日8月19日は語呂合わせから、俳句の日と言われております。
大旦那様より、この日に際して句を詠んでみよと仰せつかり、
十句あまりを認めさせていただきました。

大変光栄なことに、ご覧いただきました中のひとつをお気に召して
いただけ、本日ご帰宅いただくお嬢様方にお贈りするようお申し付け
くださいました。
お恥ずかしゅうございますが、お楽しみいただけたなら幸いでございます。


大旦那様にお選びいただきましたのは、

「水蜜桃 ひとつだけよと ほおを染め」

という一句でございます。
パティシエの立花に付き添って果物を選りに参りました際、
市場にて見た十になるかならぬかという少年と、彼より少しばかり
背の高い少女の様子を詠んだものでございます。

わたくしが手帳を広げている間、立花はこれも仕事ぞと桃の試食を
続けておりました。
「伊織君、食べる?」
という声に顔を上げてみれば、差し出された皿の上に桃の切れがひとつ。
この一切れでどうやって十種類の桃を比べよと言うのでしょうか。
わたくしは果物の味をどうこう言う身ではございませんが、先ほどまでは
二人分と、二十切れはあったはずですのに……。

「水蜜桃 ひとつだけかと はらを立て」

さすがにこれは、大旦那様にはご覧いただきませんでした。