吐く息も白くなり、寒さは増す一方でございます。
お嬢様、いかがお過ごしでしょうか?
また椎名の苦手な季節の到来です。
昼間、比較的暖かな日差しに包まれていても夜には一転。
お嬢様もお出かけの際は油断をならずに温かい服装を心がけてくださいませ。
さて、先日のことでございます。
その日の執務も無事終えてひと段落しましたので、寝る前に散歩に出かけることに致しました。
いつもの散歩コース。
肌を刺すような寒さが多少気になるところですが、この季節特有の澄んだ空気が一日の疲れを癒してくれます。
っとそんな時、なにやら黒い物体が私の視界にはいってきました。
暗闇の中、目を凝らしてみるとそこには一匹の猫がちんまりと座っていました。
実はこの時間の散歩の目的はもうひとつあります。
少し前に出会ったこの猫に会うためでございます
以前どこかでお話したことがあったような気もしますが、私は無類の猫好き。しかも毛色は黒と白の八割れ(「鉢割れ」とも言うそうですが、一般的に顔の毛色が黒と白で八の字の様に左右に分かれて鼻筋が白いものをそう呼びます)でございます。
非常に均整の取れた八割れで、両手足が靴下を履いたように真っ白。
大好物です!
心なしか寄り目で少年のような顔つきのその猫は、大変愛嬌のある表情をしております。
そして何よりも特徴的なのは口元。
ふっくらもっちりとしており、普通の猫よりもボリュームがあります。
そのもっちりとした口元から名前は「もちゃ」と名づけました。
ただ残念なのが警戒心が強いこと。
猫に近づく術をある程度心得ている私でさえも、なかなか心を開いてもらえません。
崩れがたい一定の距離・・・
ですので少しずつ距離を縮めていこうと、時間があれば顔を見せに来ているのでございます。
「さて、今日はどの距離まで許してもらえるか・・・」
そう呟き、すっと腰を落とし人差し指を前に出します。
・・・しかし、そのときの私はまだ、その後訪れる驚愕の事実を知らなかったのです。
つづく