画聖の愛したお酒

敬愛せしお嬢様へ
まだまだ続く寒さの中でございますが、梅の花が色づいていたりと
ほんの僅かながら春の兆しも感じる昨今でございます。

さて今宵は突然でございますが
フランス生まれのリキュール「スーズ」というお酒のお話をさせていただきたく存じます。
実は以前も他の場所で、このお酒についてお話ししたことがございますが、
この2月。時任がサロンにてのミニバー「tinyBLUEMOON」を務めるにあたりまして
この「スーズ」を用いました『シャルルジョルダン』なるカクテルをお品の一つとしてご用意しておりますゆえ、今一度このお酒について小噺をお届けしたく存じます。

「スーズ」は中世ヨーロッパにおいて非常に流行しておりました香草系のリキュールでございます。
リンドウの根を原料の一つとしておりまして、ほろ苦くも爽やかで香り高い風味が魅力でございます。
‥と申しましても要は根っこでございますので、分かりやすさだけを最優先してお味を表現いたしますと

ゴボウの味がいたします。
ゴボウです。
あの黒くて細長いやつ。

なお時任はゴボウを薄切りにしてさっと揚げたゴボウチップスは至高のおつまみかと存じます。

黄金色に輝く液体は、冷やせば冷やすほど色が映えると言われておりまして
その奥深い風味と美しい色彩は、中世から多くのものに愛されておりました。
こと、何故だかシャガールやパブロ•ピカソなど前衛的な芸術家たちに特に愛飲されており
特にパブロ•ピカソについては、スーズの色彩に魅了されて絵画の色使いが変化したと言われているほどでございます。

味はゴボウです。
ええ、ゴボウ。
皮を剥かなくて良いあたり、ちょっと主婦に優しいあのゴボウです。

なお時任はゴボウの細切りを、豚汁だけではなくお雑煮やお味噌汁に入れるのも大賛成派でございます。
歯応えも風味も素晴らしゅうございます。

 

画聖パブロ•ピカソは若き日に、このスーズの酒瓶を題材に絵画を残しております。
「グラスとスーズの瓶」と題されたこの作品。
それまで青灰色の寒々しい絵画ばかり描いていたピカソが、明るく大胆な色使いに目覚めた契機とも言われる品でございますね。

そんな芸術家すら魅了する美しい色。
そんなスーズを使ったシャルルジョルダンもまた、スーズの黄色にキュラソーの青を合わせた、美しい緑色のカクテルでございます。
キャンパスに色を広げるように、グラスの中に美しい色彩を映し取ってお届けいたしますゆえぜひお一つお召し上がりくださいませ。

ベースのお味はゴボウですが。
ええ、あの包丁での切り方が独特なゴボウ。
ほろ苦く香り高い爽やかなお味です。
煮物にも最高です。思えばあの時酢豚にゴボウ入れれば良かったなぁ。

カクテル「シャルルジョルダン」は
スーズに甘いライチや瑞々しいグレープフルーツを合わせて、バランスよくフルーティに仕上げております
幾重に重なるフルーツの帳の奥から、そっと顔を出すゴボウ。
いや、ゴボウ言いすぎて忘れておりました。実際はリンドウでございます。

このリンドウのほろ苦さも、シャルルジョルダンの織りなす繊細に組まれたパズルのような味わいも、私は個人的に大好きでございます。

いつもはお嬢様の味覚に合わせて、ちょっと柔らかい風味にアレンジし直したり、甘く変えてみたりが多うございますが、
此度は時任自身の「大好き」を貫かせていただきました。

画聖たちの愛したリキュール、魂を与えた色彩
お手元にお届けできれば幸いでございます。

 

 

 

 

あと、ゴボウはスティック状にしてあげるのがマイフェバリットでございます。