敬愛せしお嬢様へ
いよいよ12月に入り、寒さも一段と本格化してまいりました。
冬のコートやマフラーの準備は万端でございましょうか?
このような寒い日々は、暖炉のそばで読書などして過ごすのが一番でございますね。読書と申しませば、先日の朗読サロンに足をお運びくださったお嬢様、お坊っちゃま、ありがとうございました。
私は「ビロードのウサギ」と、もうひと作品「桃太郎」に参加させていただきましたが
実に興味深い良い経験でございました。
原作への考察や、声の出し方演出の一つへのこだわりなど学びになることがとても多い催しでございました。
さて、そんな次第で私自身も原作について学び直し、より良き朗読をお届けしようと試みたわけでございますが
「桃太郎」を改めて調べ直してみますと、これまた歴史観点においても文化観点においても興味深い限りでございました。桃太郎のストーリーは皆様ご存知の通りゆえ、説明は割愛いたしますが、これを最初にいつ誰が書いた物語なのかすら、厳密には謎のままでございます。
諸説あるものの、どうやら室町の頃に初めて物語として口伝されたようでございまして
ご存知の通り岡山を舞台にしたお話であるというのが定説なれど
これにも名古屋説、信州説、果ては沖縄説などもあるそうでございます。その口伝や編纂された時代、編纂者によって桃太郎の誕生から、その生い立ち、そしてメインストーリーたる鬼ヶ島の鬼退治に至るまでも桃太郎が桃から生まれず、流れてきた桃を食べたら若者へと若返ったお爺さんお婆さんの実の子供だったり。
桃太郎が、よく描かれるような家族孝行の凛々しい若武者ではなく、甘やかされて育った果ての、怪力ばかり凄まじい巨漢肥満児の暴れん坊だったり、香川県の一部では桃太郎が女の子だったなんて説もございます。諸説、様々なシチュエーションがあり面白い限りでございます。そんな実はバリエーション豊かな桃太郎のお話
その口伝される契機となったもの、つまり桃太郎のモデルについても諸説ありまして
海外から漂着した海賊を退治した源氏の若武者ですとか、山賊退治した怪力の庶民の話が元だとか、いやいや実は中国の虎退治の逸話が元だとか、
これもまた数多の学者さんたちが激しく持論を戦わせているそうでございます。そんな中でもっとも主流とされておりますのは、古代日本を舞台とし、当事の皇子が一人「吉備津彦命」が、西日本一帯を荒らしていた鬼神の如く強力な豪族「温羅」を破ったお話が元とされる説でございます。まだ日本の四方に、皇家に従わぬ野の豪族たちがあり、皇家が王子たちを将軍として使わせて各地を平定していた時代であり、その中でももっとも頑強に抵抗を続けていたのが、西日本のちょうど岡山辺りを本拠としていた「温羅」の一族でありましてその強力な温羅の軍を破るために、皇子は腹心の武将•犬飼健命と、温羅支配下の地元豪族であり案内役を務めた楽々森彦命、狩人集であり偵察に長けた留玉臣命の三名を供として少数精鋭で本陣に乗り込み、温羅の首印を取ったと言われております。この三人の部下が、口伝で物語と化す中で犬•猿•雉に変わったわけでございますね。
こう書きますと、桃太郎の元となった物語も壮大な映画化が出来そうでございます。数億の制作費と豪華キャストでお贈りする「桃太郎ゼロtheMOVIE」来春公開予定かもしれませんので、楽しみにお待ちくださいませ。