日誌

ご機嫌麗しゅうございます、荒木田でございます。

タイムカプセルを掘り起こした経験はございますか?

数年、十数年、或いは数十年前の自分からの手紙。古びた缶には思い出の品や、思い出せない品の数々との対面は、殆どタイムトラベルのようなものでしょう。

タイムマシーンなど無くとも、過去に行けるのだ。……なんて宣言したらホーキング博士に怒られそうなのでやめておきます。

さて。

驫木駅という駅をご存知でございますか?

鉄道旅が好きな人間であれば、恐らく一度は名前を聞いたことがある、或いは写真を見たことがあるであろう、
青森県と秋田県を海沿いに結ぶローカル路線である五能線の一駅、それが驫木駅でございます。

小さな無人駅に過ぎないこの駅を有名にしているのはそのロケーションです。周りには建物の影も殆どなく、海沿いにぽつんと、木造の駅舎が佇んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お写真をご覧いただけば、きっとその魅力が伝わることでしょう。

私が初めて訪れたのはまだ酒の味も知らぬ時分でございました。ポスターの中でしか見たことのない風景に酔いしれ、燥いでいたら草むらのどこかに四角い端末を落とし、数時間に一本しか来ない電車に間に合わないという始末。苦々しい失敗の記憶にございます。

それから、この駅には数度と訪れましたが、その度に思うのは「ここは変わらないな」ということ。

私がどれだけ変わろうとも。世界がどれだけ変わろうとも。それでも、この場所はこのままなのです。

全く、ノスタルジィは、善き哉。

この場所こそが、私なりのタイムカプセルでございます。過去に触れ、過去の自分を垣間見て、未来の自分に託す場所。変わる自分、変わる世界。変わらない自分、変わらない世界。

タイムカプセルの内容や隠し場所など、あまり人に話すものでは御座いませんが、ご安心くださいませ。日本中を旅して回っておった私でございます、秘められたカプセルは十や二十ではございません。死ぬ前には全て巡ろうと思っておりますが、どうも私の死出の旅路は長旅になりそうですね。

お嬢様も、タイムカプセルの隠し場所にはくれぐれもご注意を。過去の自分と未来の自分の対話でございますから、くれぐれも隠し場所は慎重に。第三者の立ち入りは野暮でございます。

あぁそれと、忘れてしまった時のために、信頼のおける人間に場所を控えてもらう、というのも肝要かと。

……そういえば以前、椎名執事から「本邸のお庭の隅には大切なものが埋まっているから決して立ち入らぬように」と聞いたことがございますね。

……まさか。早速スコップを用意して、そうだ、小瀧にも声を掛けましょう。

いざゆかん。