再挑戦・究極のマティーニ

敬愛せしお嬢様へ

当家でカクテルを学ばんとする若人たちもありがたきことに代々増えまして、
彼らが新しい発想の良き品々をお嬢様も元にお届けすることも多く、
時任は彼らの背を見守りながら、たまに好きにカクテルを作らせて頂く日々でございます。

余裕が出て参りますと、カクテルという文化への探究心もまた溢れるもので
時折、お外のお屋敷に勉強に伺いましたり、別邸でボトルを並べて研究したりと、そんな機会も増えてまいりました。

その一端として、幾度か挑戦したことがあり、また挑んでみたいと思っておりました「究極のマティーニ」というものを試してみました。

「究極のマティーニ」と呼ぶべき条件が如何なるものかは、バーテンダー個々に異なるとは思います。
極限までドライに仕上げた、チャーチル卿のマティーニを究極と呼ぶ者もおりますし、
製法を問わず、そのステア技術のみで究極と言われる味を目指すものも少なくありません。

その中から今回は、戦後昭和の日本のバーで生まれた「究極のマティーニ」を作ってみることに致しました。

この製法の考案者は、当時のバーテンダー大泉洋さん。
かの名俳優さんと同名ですが残念ながら別人でございます。

まず冷凍庫でジンをボトルごとよく冷やします。
ジンは敢えて最も古典的なオランダのジンを使用いたしました。
合わせるベルモットワインは冷蔵庫でよく冷やし、どちらも数日しっかり冷やしました上で、
ミキシンググラスに注いで氷を入れずに静かに混ぜ合わせます。
(大泉氏は大量生産のため、ボトルに材料を詰めて振っていたそうですが)

混ぜ合わせた液体を再び冷凍庫に入れ、また2日ほど冷やします。
そして2日後に取り出した液体をグラスに注ぎ、頂くという製法です。
単純ですが何とも気の長いレシピでございます。

試飲してみたところ、やはりよく冷やしたジンのとろみと甘味に、ジュニパーベリーの爽快さと、ベルモットの瀟洒な香りが濃厚に混じり合って、実に良いお味でございました。

何かの折に、お嬢様の元へもお届けできたらと思います。
非常にアルコールが強いので、おやすみ前にお飲み頂くのがお勧めではございますが。

 

数日の仕込みが肝でございますが、
お屋敷で仕込んだら皆の試飲と称したつまみ飲みでほぼ無くなりそうでございます。