入梅

司馬でございます。
皆様、お健やかでいらっしゃいますか?

六月になりますと、しとしと雨が降り続くようになり、少しばかり気が滅入る日々も続くようになります。

―梅雨。
私の苦手とする言葉でございます。

先日、わずかな晴れ間を縫って、庭園の枝ぶりの成長を眺めておりましたところ、鮮やかに咲く紫陽花の陰に、カタツムリが止まっているのを目にしました。

“揚雲雀(あげひばり)なのりいで、蝸牛(かたつむり)枝に這ひ、神、そらに知ろしめす。すべて世は事も無し。”

上田敏の訳詩集『海潮音』(1905年)で愛誦される、英国詩人・ブラウニングの「春の朝」の一節でも、こんな時に口ずさめれば、わずかでも教養を披露しつつ、お嬢様方からお褒めの言葉もいただけるのでしょう。
しかし、こんな時に、つい司馬が連想してしまいましたのは、フランス・ブルゴーニュ地方の郷土料理“エスカルゴ”でございました。

 

その存在を知ったのは、まだ少年のころ。
いまでこそ珍しいものではございませんが、当時、おいそれとメニューに載っているような品ではございません。
いろいろと想像をたくましくし、たまらずに唾が湧いてくるような、はしたない有様でございました。

長じて、はじめて口にしたときは・・・。
刻んだガーリックやパセリを練りこんだバター(エスカルゴバター)と共に貝殻に詰めて、オーブンで焼かれたその歯ごたえと濃厚な風味は、さながら西洋風のサザエのつぼ焼きといった趣で、たちまち虜となりました。
以来、機会があれば、前菜に頼むようにしております。

貝のような肉質でありながら、磯の香りが皆無なため、赤ワインとも相性がよく、本場のブルゴーニュではピノ・ノワールとガメイの品種がブレンドされた「コトー・ブルギニョン」という、フレッシュなタイプの、カジュアルなワインが好まれているようでございます。
やはり、本来は高級料理ではなく、気軽に楽しむ郷土料理のようでございますね。

―健啖。
私の好きな言葉でございます。

まだまだ、ジメジメとしたお天気も続き、その先にはうだるような暑さも控えております。
ただ、食事を軽んじるのは論外。
さすがに、エスカルゴは珍味も行きすぎ、二の足を踏まれるお嬢様もいらっしゃるかと存じますが、ムール貝のアヒージョや、同じようにエスカルゴバターを使って調理したサザエのオーブン焼きなど、代わりのお品はいくらでも用意が叶います。

どうぞ、おいしいお食事とお酒、もちろんスイーツや紅茶も存分に楽しまれて、夏本番に向けて体力の増強をお心がけくださいませ。