敬愛せしお嬢様へ
春の日差しが見えたかと思えばまた寒く
三寒四温の名の通り、なかなか春の香りは感じながらもコートを手放せない日々が続いております。
こうなるとお暇をいただいた日も、ついつい暖かい自室から出たくなくなってしまいますが
これではならぬと。
よき絵画の題材探しも兼ねて
街の散策に出て参りました。
時勢もありて、なかなかお出掛けの叶わぬ風潮もございますが、ひとり野外をそぞろ歩くのには支障もございますまい。
そんな思いを抱きひとっ走り、降り立ったのは御茶ノ水駅。
聖橋口に砂糖醤油で風味をつけた焼き煎餅やさんが露店を出していましたので、早くも食べ歩きの一歩目を記してしまいました。
様々なお店がテイクアウトを許してくれるところだけは、便利でございますね。
神田川を跨ぐ、風情ある聖橋を渡り、
湯島聖堂の樹々が新緑色になっているのを眺めながら歩を進めます。
冬のお散歩は肌寒いですが、日差しが優しいのは助かりますね。
湯島聖堂沿いに道を辿り、道路を渡って神田明神へ。
お正月は屋台で賑わう参道も、なにもない日は静かなものですね。
少し冷えていましたので、
参道入り口近くの馴染みの茶屋で、名物の甘酒を所望して体を暖めます。
もう茶屋内でも頂けるようなのですが、いまは自制してテイクアウトでお願い致しましょう。
甘酒とは不思議な飲み物ですね。
本当に度数の高いアルコールのように、冷えた体がすぐに暖まります。
お屋敷でももっと導入するべきでしょうか。
考えつつ参道を登り、神田明神境内へ
人がいないときの神田明神は、こんなに広いのですね。
まずは参拝を済ませ。
そしてとても近代的な文化交流館へ。
神社境内に、刻々と表示を変えていく大型ディスプレイが幾つも並んでいるのはちょっと不思議な光景でございますが、こちらは「インターネットの守護神」というとても近代的な神格もあられるそうで、ある意味納得でございます。
ここの名物である「神社応援(ジンジャーエール)」を購入しまして、心地よい生姜の風味を喉で感じましてから、境内をお散歩させていただきました。
昔、若者が力比べをした大石や、江戸最古の地神であられるスサノオミコトの江戸神社などがございます。
銭形平次の碑なども高名でございますが。
この碑のそばに小さく「八五郎の碑」があるのはご存じでしょうか?
おそばに寄る機会があったら探してみてくださいませ。
さて。神社裏手の小階段から街に戻り
まさかの、鰻屋さんのテイクアウトに遭遇して
よき香りに心奪われながらも、自制して歩を進めます。
…自制して、鰻串を買い求めるに留めました。
そのまま、神田明神下の街並みを眺めながらぐるりと回り。
清水坂に向かいますと、昔からのカレーの名店がスープカレーをカップで店頭販売しておりまして。
スパイスの香りに心奪われそうになりながら歩みを進め
そのまま、レトロな喫茶店を散見する通りを上って参りますと、この時の止まったような店内でゆっくり過ごしたい誘惑に駆られつつも、テイクアウトをしてくださっていた店舗で暖かなミルクティーを買うに留めました。
…スープカレーとミルクティーは微妙に合いませんね。
チャイにすればよかった。
そのまま暫し脚を進めますと、湯島天神が見えて参ります。
軽く参拝させていただき、良き天候のもと庭園へと足を進めます。
こちらの梅園が本日の主目的でございましたが、
さすがに人手がいささかございましたので、庭園内ではなく、やや外れに陣取りまして、絵画資料用に写真など撮って回らせていただきました。
来年は落ち着いて、梅の花の真下を歩きたいものでございますね。
庭園の来訪者目当てか、こちらには露店もいくつかお見かけしました。
あまりジャンクな食事は良くありませんから、ほどほどに致しましょう。
…牛串と広島風お好み焼きと、土手煮美味しゅうございました。
さて、湯島天神を裏手に抜けて上野方面に向かいましょう。
旧岩崎邸にもお伺いしたいところでしたが、いまは臨時休館中のようで外観のみ拝観いたしまして
そのまま上野恩賜公園にお邪魔いたしました。
不忍池の蓮や水鳥たちを眺めながらぐるりと一周。
穏やかな気候がとても心地よいひとときでございます。
弁天堂や千手観音堂を巡り、公園の茶屋で新芽が芽吹いているのを眺めながら一休みというのが理想でございましたが
やはり茶屋もやや人が多く居られましたため、
使用人の身としては遠慮させていただき、
レトロな売店のお婆様から缶コーヒーを購入し、公園のベンチにて新芽を眺めながら一息つくことに致しました。
…え?ここはお団子も美味しいんですか。そうですか。ひとつ頂きます。
…ほう。みたらしが鉄板だけれども、手作りの餡ころも絶品ですと。では、ふたつ頂きましょう。
コロコロとお婆様に団子のように転がされて、一息どころか間食タイムになりました。
緑茶の香りがよく合います。
あ、緑茶はサービスで頂きました。
ようように日も傾きまして、夕暮れの気配。
このまま御徒町方面に向かいアメ横市を廻ってみるも、神保町に足を伸ばして書物を漁るのも魅力的ですが、その辺りはもう少し世の中が落ち着いてからのお楽しみでございましょうかね。
ガード下でちょっと小腹を満たして帰れないのはなんだか寂しい限りでございますが、
何故だかとってもお腹がいっぱいなので、
気にせず帰ることに致しましょう。
上野駅前の伝統的な商店街が、早めの店じまいを進めているのを横目に、帰途につくことに致しました。
…おや?名店のシチューがレトルトでテイクアウトできるのですか、そうですか……。
お嬢様。
なかなか羽を伸ばすのも難しいご時世ではございますが、
たまには、適度に気を付けながら
気ままに散歩を楽しむのも良いものでございますよ。
ぜひ気晴らしに、気の向くままにお出掛けくださいませ。