フットマンの仕事

ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様。
隈川でございます。

気が付けば年の瀬、2019年も終わりを迎えようとしております。

この時期は屋敷の中も忙しない雰囲気で、使用人たちも年内に納めなくてはならぬ執務や給仕に奔走しております。「師走」ならぬ「使走」とでも申しましょうか。

特にフットマンたちはあれやこれやと大忙しでございます。

…え。
「フットマンたちはいつもはどんな仕事をしているの?」でございますか。

…左様でございますね。
一般的な屋敷ではフットマンと申しますと主人の外出時ご同行したり、客人の来訪時に不自由がないよう滞在中の手伝いをしたり。

他にもヴァレットや執事の小間使いのようなものと認識されているかと存じます。

(そういえば大昔のイギリスでは半ズボンで馬車の横を並走していたと聞きますから、運動嫌いの私からすると現代に生まれて本当に良かったと感じざるを得ません。)

しかし…最近、当家の自分以外のフットマンたちの執事日誌を拝読し返してみますと他の屋敷ならばフットマンには触れることも許されないような内容の仕事を一任されている者も多いようですね。使用人界隈ではかなり特異な環境でございます。

大旦那様のお人柄からなのか、使用人たち自身が考え、得意な仕事をフレキシブルに分担することを許されているようにも存じます。

それを踏まえ鑑みますと
「うわっ…隈川の執務内容、狭すぎ…?」
というどこかの広告のような不安を覚えます。

日々のティーサロンでのお嬢様の身の回りのお世話、ファーストフットマンとしての教育係、それ以外では課外活動として執事歌劇団で任されております執務ぐらいです。

思い返しますと【ティーサロン】【使用人寮】【講堂】を行ったり来たりの毎日。

私、凡そ6年以上フットマンとして屋敷に在籍しているにも関わらず、未だに敷地内で足を踏み入れたことのない場所すら沢山ございます。

例えば庭園の奥の森、当家抱えの職人たちの工房、大浴場、…etc.
ああ、実は馬房にも踏み入ることが少のうございます。(お恥ずかしながら馬車馬たちも名前と毛色が一致しているのは金澤の可愛がっている「田吾作」と屋敷に来たばかりの頃に門前で蹴られかけた「エリザベス」ぐらいのもの。他の馬は正式名称を知らぬので勝手に渾名で呼んでおります)

逆によく足を踏み入れる場所ですと、図書室は調べ物の際に重宝しますし、庭師とは世間話をしたり髪を切って貰ったり、あと現在は使われていない旧リネン室にこっそり毛布を持ち込んで時々包まってお昼寝をしたり…あ、これは他の使用人たちには内緒ですよ。

…そうだ、お嬢様!
来年はお嬢様のお時間のあるときに、こっそり一緒に屋敷内を探索してみましょうか。

どうか来年も宜しくお願い致します、お嬢様。

隈川