敬愛せしお嬢様へ。
季候の上の夏がようやく終わったかと思えば、天候がずいぶんと荒れておりますが、お嬢様におかれましてはご健勝であられましょうか?
お風邪など召していらっしゃらないか心配でございます。
どうか雨などに降られました日は、お部屋に戻られたら暖かくなさって、熱い紅茶などお召し頂きお体を暖めてくださいませ。
さて、過日のことではございますが、港町にございます由緒ある他家のお屋敷に、名代としてお邪魔して参りました。
古く明治の始まりから保たれているこのお屋敷は、現在では多くの庶民も後学のため来館を許しておられ、お陰で私も遠慮なく、伝統あるお屋敷の姿を学ばせて頂いております。
お伺いしたのが名月の頃でございましたが、晩餐の席もエントランスも季節に合わせた風情に飾られておられ、和洋の調和が美しくございました。
季節の草花を卓上や夏期の暖炉などに飾る美しい習慣は、中世欧州頃から続く使用人たちの勤めの一つでもあるようです。当館も叶うならば見習いたいものでございます。
このような小さな積み重ねの一つ一つが、よきお屋敷に繋がるのでございましょう。
世は波風あれど努めてあるべきを守り、明日もまたお嬢様お坊っちゃまがたにお寛ぎ頂ける場所でありますよう、精進して参ります。