敬愛せしお嬢様へ
深緑に染まった樹々の葉を、眩しい陽光が燦々と照らす、本格的な夏がやってまいりましたね。
こんな時期の朝食や間食には果実を採られると良いようでございます。
こと、柑橘系の果実は効率よく体温を下げてくれますので、暑さに辟易とする午後などはよく冷やしたグレープフルーツなどいかがでしょう。
さて、お屋敷の雑学としてときどき、今さら聞けぬお屋敷の細かな蘊蓄をお届けしておりますが、今宵は「ページボーイ」のお話でございます。
お屋敷においては、黒シャツに黒ベストの軽装な装いにて希にサロンへ出現し、お嬢様方のお化粧室へのエスコートを担当する使用人見習いのことをページボーイと称しております。
フットマン候補としての勉学を納め、いよいよフットマンとしてのお勤めを許していただく直前の実務研修のようなものでございますため期間は短く、意外と当館においても「レア」な光景でございます。
「ページボーイ」を見掛けましたらぜひ激励のお言葉など頂けましたら、それはもう彼らの励みとなりましょうが、彼らはまだ名乗りを許されておりません上に、憧れのお嬢様にお声を頂くなどさぞ緊張することでございましょうから、不調法などございましたら何卒ご寛恕くださいませ。
さて、そんなページボーイでございますが、中世欧州などのお屋敷におきましてはもう少し年少の存在となってまいります。おおよそ14歳ほどから、幼きものは7,8歳ほどでございまして。執事やフットマンの指導のもと小間使いやメッセンジャー等を勤めながら、貴族社会のマナーや紳士に必要な知識を学んでいた子供たちでございます。
その多くは、他のお屋敷の貴族子弟たちであり、彼らの多くはこのように、より格上の貴族の邸宅に預けられ使用人として勤めながら貴族社会を学んでいくのが通例でございました。
ページボーイだけでなく、いつか家門を継ぐその日まで、ときにはフットマンとなっても仕え続ける子弟も多かったようでございます。
さらにその歴史を遡っていきますと、騎士見習いの子供たちのことをペイジと呼んでいたようでございまして、戦の際には騎士の後ろから騎兵槍や長弓、戦鎚などを弁慶のように束に背負って従軍し、主たる騎士に状況によって必要な武具を素早く手渡す、なんて役割を担っていた時代もあったようでございますね。
何だか粗暴な事例になってしまいましたが、現代において見られるページボーイは当家の他には、すっかり戦とは真逆なことに、結婚式などにおいて新郎新婦を先導したり、ドレスの裾を持ってあげたりする子供たちのことを指すようでございます。
役柄の言葉ひとつとっても多彩なバックストーリーがあるもので、ついつい脱線が過ぎてしまいましたが。
お嬢様のお役に立てるその日を夢見て今日もお屋敷のどこかで頑張っているページボーイたちが、いつかお嬢様にお目見え叶いますよう。どうか願ってやってくださいませ。