お屋敷の雑学/参

敬愛せしお嬢様へ。
六月も既に終盤となり、今年も折り返しが近付いております。
月日の進む速さにはいつも驚くばかりでございます。
梅雨も間もなく明けましょうが、急な雷雨なども多うございましょうから、
口煩うございますが、ご面倒でも何卒、お傘はお持ち頂くようにお願い申し上げます。

さて、近々の日誌では『お屋敷の雑学』と称しまして、今さら聞くに聞けぬようなお屋敷ならではの雑学をお届けしておりますが、、、今回は「役職」のお話をお届けさせて頂きます。

使用人達の中には様々な役職を頂いておる者たちがおります。
私め時任や、椎名らが拝命しております「ハウススチュワード」。
伊織、水瀬や能見が拝命しております「セカンドスチュワード」。
大河内や香川、金澤が拝命しております「グルームオブチェインバー」。
そして、環や百合野、隈川が拝命しております「ファーストフットマン」等でございますね。

これらのお役目を頂く者は、役目に応じた色の宝石をあつらえたピンバッジを賜り、その輝きに恥じることなき働きを行なえるよう努めておりますが、
さて、具体的に其々の役割がどのようなものでしょうか。
その名のモチーフである中世欧州に於いての史実と、実際の当館での勤めの双方について、簡単にでございますが綴らせて頂きます。

「ハウススチュワード」とは、中世欧州においては『主人の命により「別館」や「城塞」などの管理を任された使用人』でございました。
多くの領館を持つ主人に代わって、その屋敷の全権を担う「代官」と言うべき者でございます。
なお、館のみならず領地ごと任される場合もございまして、その場合は「ランドスチュワード」と呼ばれるのだそうでございます。
当館swallowtailの場合は、多忙な大旦那様に代わり、お屋敷の使用人達を取りまとめる役割を担っております故
明確な権限を賜っているわけではございませんが、料飲や歌劇など各方面に経験を積みたる者たちが、次代の使用人達の支えとなるべく務めさせて頂いております。

「セカンドスチュワード」とは、大旦那様、もしくはハウススチュワードの補助を任じられたフットマンであり、トップ直属のフットマンとして実働する使用人達の実的な指導を行なう役割でございます。
当館におきましても、使用人達の指揮者として日々のお給仕や催しごとの指揮を陣頭に立って行っております。

「グルームオブチェインバー」。正直これが一番よくわからない所かと思います。
当館の某チェインバーも、問うてみたらよく分かってなかったという噂もございます。
直訳すると「客室警備係」。中世におきましては、客人の付き人や調度品の管理などを務める使用人でございましたが、
実は必要性がほぼ無い役職であり、この「グルームオブチェインバー」を設けているお屋敷もそう多くなかった様でございます。
逆に「グルームオブチェインバー」が存在しているという事自体が、そのお屋敷の財力や由緒正しさを誇示する一種のステータスとなっていた様でございまして、それゆえにこの役職に選抜される使用人とは対外的な役割を担うことが多く、最も作法や美麗さや知識に長けたものが任じられておりました。
当館においても「グルームオブチェインバー」とは多彩な技能と経験に長けた者が選抜され、様々な状況に柔軟に対応できるサポート役を担うと共に、使用人達の規範となるべく務めております。

「ファーストフットマン」は古来も現在も変わらず、自身もフットマンであると同時にフットマン達の教師となる存在です。
ちなみに時任も10年前はフットマンでございましたが、その時の私の教師は環でございました。
未だに環と相対した時は、どこか「先生」に相対するときの緊張感が微妙に残っております。

などなど、多彩な名のお役目を各自最善を尽くして務めさせて頂いております。
お嬢様方も、何かお困りのことがございます時に、胸に宝石を戴く使用人がおりましたら、何なりと頼ってやってくださいませ。

・・・ん?
「メートルドヴァンドール」?

あ、いや、もちろん知ってますよ。知ってますけど、、、、
、、、、ちょっと調べておきますね。はい。