敬愛せしお嬢様へ。
桜がいつのまにか咲き始め、春も近いことを告げております。
また季節が巡りましたことを知り、感慨深く桜を眺めておりました。
街に出ましたら、「新生活の応援」と銘打っての家具や日用品の特売が盛りでございまして。
世はそういう時期なのですね。と感慨深く思いながら、新生活の予定は全く無いものの有り難くお屋敷の日用品などをお得に補充させて頂きました。
春になって新しい生活に挑まれる方も多いでしょう。
新しくお屋敷の門を叩く使用人候補も増える頃でしょうか。
あるいは新生活に入られてから、初めてティーサロンにお越し頂くお嬢様もいらっしゃるやも知れません。
さて、思えばお屋敷の歴史も長く、気付けば13周年を迎えました
かつてはお屋敷の在り方や歴史的知識については、前任の執事たちが厳しく教示を勤めておりましたが、近年はそういった黴臭い教鞭を取る者もなくなり久しゅうございます。
ふと思い立ちました。
このまま春を迎え、お戻り頂く新しきお嬢様がたにお屋敷のなんたるかを如何にお伝えするべきかと。
また、無垢な瞳の新しきお嬢様がたにお屋敷の伝統を問われて、お答えに窮してしまうお嬢様が居らっしゃったりしないかと。
そこで、この日誌の端っこをお借りしまして。
『今さら聞けないお屋敷の雑学講座』
そんなものを数回ほど、駄文ながらお届けしたいと思います。
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『執事とフットマン』
初めてお嬢様をサロンへとお迎えし、自己紹介をさせて頂くとき。
「お仕えするフットマンでございます。」
こう申し上げると、頭上に『?』マークを浮かべる方が多うございます。
「フットマンって何?」
「執事喫茶って、全員執事じゃないの?」
ごもっともな疑問でございます。
実際、当家の門を叩いた使用人志願者たちからも、よく発生する質問でございます。
では、執事とフットマンとは何たるか。
その解説に入ります前に、簡単に解答だけ申し上げておきますと
当館においての執事とフットマンとは、下のような役割の違いがございます。
『お嬢様のお側で給仕などのお世話をする者は「フットマン」
お嬢様のスケジュールを管理し、お出迎えやお見送りを勤める者が「執事」』です。
さて、執事とフットマンについてお話しするには、そもそも「執事」とはなんぞやというお話が必要です。
–これもまた、時代や地域によって多少異なりますが、黎明期のお話や時代による変化までお話ししていては本が一冊書けてしまいますゆえ、中世英国の古典的な「お屋敷」を前提としてお話しさせて頂きます。
端的に申しますと執事とは、お屋敷における使用人の長です。
小姓や近侍、料理人や庭師、御者や女給や馬丁や小間使いといった様々な使用人たちを統括する役割が執事であり、使用人たちとお屋敷を管理する責任者だったわけです。
つまり、普通は「執事」というものは、ひとつのお屋敷に一人しかいません。
しかしスワロウテイルには大変多くのお嬢様がいらっしゃいますため、
例外的に数名の執事が存在し、手分けをして執務を行っている次第でございます。
対して、フットマンとは執事の指揮下にあって、主にお食事の給仕や身の回りのお世話を行う者たちです。
その職務内容はお屋敷によっても異なりますが、お屋敷全体を管理する役割を担う執事と違い、お嬢様の身の回りのお世話をより細かく担うため、お嬢様のスケジュールやご要望によってその役割は非常に多彩なものとなります。
その忙しさたるや、お嬢様のお出掛けのお供やお使いなど、とにかく走り回ることが多かったため「フットマン」と呼ばれたなんて俗説があるぐらいでございます。
フットマンの様々なお仕事や内情については、また後日に筆を執らせて頂くと致しまして、
おそらく、近年のドラマやコミックに登場する「執事」は、実際にはフットマンと言った方が適切な場合が多いように思えます。
同じ使用人であっても「執事」と「フットマン」という違いがあるのよ。と
お嬢様がた。もし初めてお屋敷ティーサロンにお招きする御姉妹様がいらっしゃるときは、ぜひ一つご教授差し上げてくださいませ。