オールバックと1年

お嬢様、お坊ちゃま。
奥様、旦那様。
ご機嫌麗しゅうございます。
才木でございます。

近頃、前髪が現れている私でごさいますが、
その経緯を皆様にもお伝え出来ればと思い、
筆をとった次第です。

とある日のことです。
お給仕に向けて、支度を整えていた私。

私「(これは……)」

まとまらない髪に言葉を失う私です。
そもそも執事としての名を頂くのと同時に、
大旦那様に決めて頂くものですから、おいそれと変えるわけに参りません。

前髪を恨みながら、ティーサロンに向かいました。
1日くらいでしたら、大目に見て頂けるのではと。

浪川や佐々木などは、大丈夫と言ってくれますが、
そう思っても、やはり気は休まりませんでしたが。

ティーサロンに着きますと、水瀬に出会いました。
ファーストフットマンであり、寮長でもあり、日頃は燕尾服の管理も仰せつかっている水瀬ですから、
私達の身だしなみには、厳しい。それがお務めですから当然ですが。
叱責の一言程度は覚悟しながら、声をかけました。

私「おはようございます」
水瀬「おはよう、才木くん……あれ?」
私「な、何でしょう」
水瀬「普段と少し違うね」
私「滅相もございません、そんなそんな、さて今日もお務め頑張るぞー」
水瀬「ああ、前髪か」

万事休すです。
四面楚歌、ああ哀れなり。

私「違うんです、これは勝手にその、」
水瀬「いいと思うよ」

水瀬は去っていきました。
あまり状況が飲み込めません。
もしかしたら、自身が思うよりも、微細な変化で、気づかれていないということなのかも知れません。
支離滅裂ですが、そんな考えに至りました。

佐々木に確認してみると、バッチリだよ、などと返ってきました。
ありがとうございます。
しかし、いま求めているのは、優しい一言ではないのです。

佐々木から聞いたのか、何やら慌てている私を見て、
浪川がやって参りました。

浪川「そんなに気になるなら、大旦那様に聞いてみたら?」
私「いや、でも、こんな些事で大旦那様を煩わせる訳には……」
浪川「きっと聞いてくれるよ、多分」

良い奴です。
切り替えの早い私は、御所望の本を届ける際に、大旦那様に伺う事に致しました。

私「少々よろしいでしょうか」
大旦那様「どうした」
私「かくかくしかじか、という訳で、この前髪なのです」
大旦那様「ほお」
私「お許し頂けるでしょうか……?」
大旦那様「……いいんじゃないか」
私「ありがとうございます」

流石大旦那様でございます。
寛大なお心でお許しを下さいました。
そもそも「そこまで気にせずとも」のような顔をされていたのが、気にはかかりますが。
何はともあれそのようなことで、ニュー才木が生まれた訳です。変化としては微細すぎて、8分の1ニュー才木くらいなあれですけども。

与太話はこのくらいで、脇に置き。
ティーサロンのアニバーサリー期間などもありますが、
私達同期3人も4月8日で、丁度1年が経つようです。
時の流れというのは、不思議なもので、
常にそこにあるのは確かですが
私達に何も感じせずに、過ぎ去って参ります。
だからといって、無味乾燥に過ごすのは、悲しいものです。
より誠実に、より楽しく。彩り豊かに参りたいものですね。

一先ず春ですから。
桜色で、華やかに。
花より団子。私は、花より酒と言ったところです。

今後とも、どうぞよろしくお願い致します。

才木