皆さま、お健やかでいらっしゃいますか?
もうすっかり春でございますね。当家の庭園も新緑が芽生えようとしております。やがて、皆さまがたのお目を愉しませることとなるでしょう。
とうにご存知でしょうが、当家庭園の入口近くには、この界隈随一のそれはそれは見事な桜並木がございます。
先日、大旦那様は親しい方をお招きになり、花見の宴を催されました。なにしろ交際範囲の広いお方でございますから、宴もたいへん盛大なものとなります。
毎年恒例の行事ですが、執事を仰せつかる前は、その準備に関わることもございませんでしたので、書庫の中から遠く聞こえる賑わいに、いつも、うらやましげに聞き耳を立てておりました。
しかしながら、実際に宴の準備をいたす段になりますと、招待するお客様のリストの作成、献立の決定、各国の美酒を始めとするいろいろな食材の手配など、多岐にわたる仕事には、文字どおり、忙殺される毎日でございました。
さて、当日になりますと、早朝から並木の下にテーブルを出して、しみ一つないテーブルクロスを広げ、会場の設営をいたします。それが済みますと、銀食器の用意や、料理の配膳をチェック。
さらに、不便のないよう抜かりなく会場に目を光らせて、せっかく来訪されたお客様方がくつろいでくださるようお相手をし、かつ、大旦那様のお言いつけがあったなら、どこへでも馳せ参じなければなりません。
いやはや、たいへんな一日となりました。
夕刻、無事にに宴も終わり、執事仲間やフットマン達とほっと一息ついておりますと、そこへ大旦那様がやってこられて、このまま皆で夜桜見物をしたらいいじゃないか、と温かいお言葉をかけてくださいました。なんと、秘かに酒肴も用意してくださいまして・・・。
私ども一同、深く感謝しつつ大旦那様のご好意に遠慮なく甘え、時ならぬ宴会を始めたのでございます。夜桜の下、仕事仲間たちと交わす杯の美味さは、まさに筆舌につくしがたいものがございました。
時折吹く風にまきあがる、花びらの一片、一片の美しさ。単なる仕事仲間というだけではなく、楽しい酒杯を共にする同輩がいるという喜び。
「花吹雪という日本語は、世界で一番美しい言葉である」
と、さる国語学者がどこかで書かれていたとのことですが、まさにそれを実感した一夜でございました。
僭越ではございますが、どうぞ皆様方も心を許しあった友人と、楽しい一時を過ごしてくださいませ。そのような機会が多ければ多いほど、人生は豊かになると、常々私は思っております。
では、また次回の日誌でお会いいたしましょう。