冷たい木枯らしが龍の息吹のように荒れる季節が到来しました。
ジングルベルを目覚まし替わりに起床したい能見でございます。
お嬢様、お元気でいらっしゃいますでしょうか。
師走という文字通り、ほんの少し慌ただしい毎日でございますね。
移ろいゆく街中も普段より浮足立つような雰囲気を肌で感じます。
吐息が白く、冬の寒空にまるでわたあめのように消えてゆきます。
オリオン座が見えます。あれはシリウスでしょうか、綺麗ですね。
今年を改めて振り返りますと、本当に様々な出来事がございました。
もう言葉では伝えられないほど、沢山の思い出が私の中にあります。
それは決して御伽の国のような素敵で華々しい物語ばかりではなく。
ただ申し上げるならば、後悔のない一年であったと感じております。
そんなことを考えながら、使用人寮の廊下を一人で歩いております。
時折、寮の一室から使用人達の談笑する声が聞こえて参りました。
カウントダウンパーティーの準備をしているのでしょうか。はたまた、
お鍋でも囲んでいるのでしょうか。楽しそうで何よりでございます。
自室の前まで辿り着き、蝶番の軋む音を聞きながら扉を開けました。
凛と静まり返る室内。暗い空間に、カボチャ型のランプを灯します。
皴にならぬよう燕尾服をハンガーに掛け、ベッドへ身を投じました。
ふと横に目をやるとリボンを掛けられた箱が視界に映り込みました。
「こんな箱、うちの部屋にありましたっけ?」
手のひらサイズの小さな箱。私に見覚えは全くございませんでした。
当家の紋章が描かれております。おそるおそるリボンを解きました。
そんな見知らぬ箱の中に入っておりましたのは――
それは本当に綺麗な宝石。
蒼く蒼く光放つ、サファイア。
お嬢様、私から今年最後のご報告です。
私、能見はファーストフットマンに昇格致しました。
このような命を授かりましたこと、光栄に思います。
ありがとうございました。そして、これからも。
能見