じめじめと。

じめじめと。しております。
お嬢様、お坊ちゃま、ご機嫌麗しゅうございます。
才木でございます。

近頃は、曇天の合い間から、
天の子が覗くのを、心待ちにしております。
ただ、恥ずかしがりなのか、
出不精なのかは存じませんが、
とんと姿を見せません。

背を伸ばす、朝顔の如く、
光を求めてうんと背を伸ばすものの、
顔を打つのは、雨粒ばかり。
いっそ、ブタでも降れば面白い
と思うのですが、中々そうもいきません。

とはいえ、悪いことばかりではなく。
雨が降れば、
少しばかり涼しさを感じますし、
しとしとと、屋根打つ雨音も、
風情があるような気も致します。
庭に、耳をすませば、ゲロゲロと、
歌声が聞こえてくることもございます。

カエルでございますよ。
ひんやり冷たい身体なのですが、
お嬢様、お坊ちゃま方には、
少々刺激が、強うございますかね?
五月蝿いような、心地よい様な、
無骨な奴らでございますが、
ゲコゲコという、リズムを聞くと、
不思議と楽しくなってまいりますね。

そのような、
自然の音楽に、耳を傾けながら、
活字に浸るというのも、良いものですよ。
現実と非現実の境界線が、
曖昧になっていく中で、
うつろうままに時を過ごすのも、また一興です。

さて。
強かに、自己主張を続けるあやつらに、
敬意を評して、カエルにちなんだお話を、一つご紹介いたしましょう。
(ここまで前フリでございました……)

【「かえるくん、東京を救う」作:村上春樹
(短編集「神の子どもたちはみな踊る」に収録)】

あらすじを長々と説明するのも
無粋ですので、
簡単にご説明しますと、
主人公が、ある日うちに帰ると、
自宅に巨大な蛙がおります。
そいつは、自分のことを
「かえるくんと呼んでくれ」と言う。

私、春樹フリークという訳でもないのですが、氏の作品の何本かは拝読しておりまして、
どちらかと言うとこの作品は、
「世界の終わりとハードボイルドとワンダーランド」などに、近い印象を受けました。

冒頭から中々シュールではありますが、
そんなかえるくんが言うことには、
みみずくんと呼ばれるものがおり、
そいつが東京に地震をおこして、
壊滅させようとしている。
なので、みみずくんを倒して、
東京を救うのだと。

純文学というのは、得てして、
理解が追いつかないものでございます。
(あくまで、私のイメージですが)
ですが、その分からないものを、
分からないものとして、受け入れ、
世界を俯瞰してみると、
あれよあれよという間に、
作者の持つ何某かに、
飲み込まれてしまうこともしばしば。

「私の思う、私の世界の、私の答えはこうなんだ」

というエネルギーが垣間見える瞬間を、
是非楽しんで頂ければ、嬉しゅうございます。

かえるくんは、終始ユーモラスで、可愛らしゅうございますし、
作品としては、さらっとお読み頂けます。
氏の文体も、読み進めて頂くと、愉快で、語感の良さが、癖になる部分が。
更に、もう一度申しますと、かえるくんは大変可愛らしゅうございます。
オススメでございます。
是非ご一読下さいませ。

と読みふけっておりましたら、
いつしか雨音も落ち着いてまいりまして、
夜の静けさが、響いております。
長々とお付き合い頂き、恐縮でございます。
ご感想などは、またティーサロンで、
お聞かせくださいましたら、嬉しゅうございます。

ささ、明日もお出かけも早うございますから、
そろそろ、お休み下さいませ。
楽しい夢をご覧になれますよう、お祈りしております。
願わくば、その夢よりも楽しい明日でありますように。

私はもう少々、
文章の波間にたゆたうことに致します。
夏至も過ぎて、
日の出も早うございますので、
出迎えぬようお気をつけて。

才木