1人の少年が来ました、『磨き方を教えてください』と。
少年は大変飲み込みが早く、それでいて私と仙場のような水と油みたいなふたりの間に挟まれていても飄々と仕事をしていて私はすごく頼りになる後輩ができたな~と思いました。
しばらくして私が念願叶い、ドアマンの任をいただきあまり食器磨きをする事は無くなりました。その間は少年が中心となりしっかりと務めを果たしておりました。
ふと会話をしているとき『僕もお嬢様の給仕がしたい』と聞いて、自分も彼のようなどんな方にでも対応できる力と真面目さはお屋敷の力になると思っておりましたのですごく心強いと思いました。
しかしながらその願いは叶わず彼はそのままでした。
月日は一年ほど経ち、彼は腐らずしっかりと仕事をこなしており、そういった姿が大旦那さまの目にとまったのか念願叶い彼はドアマンの任をまかされたのです。
そこからは驚きというかたった2ヶ月ほどで私よりもドアマンの務めをこなせるようになり、本当にすごいなと感心いたしました。
それから程なく、大旦那さまに呼ばれました。
やっとお嬢様にお給仕ができることになったのです、そこからは2人でしっかりと勉強をして少し時間がかかりましたが何とかフロア内に立つことが許されるぐらいになりました。
そこからは苦難の連続、主に私のでございますが…。
私は本当にドジで不器用で失敗ばかり、たくさんの迷惑をお嬢様や他の使用人に迷惑をかけたかと存じます、たいして彼は少しの失敗はありますが持ち前の器用さでぐんぐん腕を伸ばしてました。
正直、私は劣等感と情けなさでいっぱいでございました、長くはやっていけないとも思いました。
ある日お給仕をしていると、お嬢様が『そう言えば聞きましたよ~桐島さんのはなし!』と。
それも1人や2人ではなくたくさんの方から。
聞くと彼がたくさんのお嬢様に私の話をしていたようです、最初はやめてくれ~と言う気持ちでいっぱいでございましたが、それからかお嬢様が、何だろう、あたたかい、というか少し柔らかく感じました。
あ、そっかぁ、彼が私の代わりに自己紹介してくれてるんだなぁと、ドジで不器用だけど良いところがたくさんあるよ、と。
本当に些細な変化ですがそれだけで私もだんだんとお給仕をする怖さが和らいだかと存じます。
他にも務めが終わったあとに色々話したものです、主に給仕のことに関してでございますが、あの時のあーしたほうがいい、こーしたほうがいいという話が今は大事な糧になっております。
他にもイベントでのドタバタとか、カクテルのバタバタとか色々ございました。
他にも…他にも…。
気づけばもう年長の使用人でございます、どちらもやれる事が定まってきて一緒になる機会もそこまで多くは無くなってきました。
しかしながら時々見る彼は本当にたくましくなり、このような使用人がどんどん増えてけばお屋敷も大丈夫だなぁと思えるほどでございます。
私もそう思わせるくらい頑張らねばと存じます。
名護は旅立つようです、いつかはくる事でございましたがやっぱり突然くるものですね。
色々言いたい事もありますが、今はただただ感謝とお疲れ様と伝えたいかと存じます。
お嬢様も色々な思いもあるかと存じます、でも彼が決めた事はきっと正しい事でございます、どうかお嬢様、温かく見守ってくださるようお願い申し上げます。
(嘘です、もう言いたい事たくさん言いましょう大丈夫です、私も仙場もネチネチとぶつけてやります、こちとらたくさん溜まっております、寂しいぞバカヤロウこのやろう)。