そういえば、あれは春も始め四月頃でございましょうか。
その日、私と環が大旦那様から仰せつかった用事を終えた後、屋敷への帰路でのことにございます。
二人でのんびりと小道を歩んでおりましたところ、雪のような白にほんのりと紅の混じった満開の桜の花が我々の頭上に広がっておりました。
『うわ、凄い…絶景ですね、環さん。お屋敷のみんなやお嬢様にもお見せしたいような見事な桜ですよ!』などと私が少し興奮気味に語りかけるもののなんだか環の様子がおかしいのです。
私と桜を交互に見つめたかと思うと溜息をついて俯いた切り返事がございません。
日頃のファーストフットマンとしての激務でお疲れなのでしょうか。
不可思議に思いつつも、こんなに美しい桜の前に会話など野暮ということなのだろうと納得し桜を眺めながら先輩とのゆったりとしたお散歩を満喫してしまいました。
今度はお団子なんかを頂きながら拝観したいものでございます。
お嬢様、今年はもうシーズンが過ぎてしまいましたが来年はみんなでお花見を致しましょう。桜って本当に綺麗ですね。
隈川