お久しぶりでございます。
古谷でございます。
季節の移り変わりは早く日本では梅雨の時期が近づいてまいりました。
ジメジメとした湿気が続くこの時期は普段ご多忙なお嬢様には心苦しい季節かと存じますが、そんな時はぜひ日頃のお務めの合間にご帰宅して頂き、一杯の紅茶で心穏やかなひとときを過ごして頂けたらと存じます。
さて、お嬢様は「喫茶去(きっさこ)」と申します言葉をご存知でございますか?
「まぁお茶でも飲んで下さい。」…という意味でございます。
日本の茶道に古くから伝わる言葉でございますが、元々は禅宗の教えから生まれました。
人間は人と人が向き合うとその瞬間に邪念が生まれます。そんな中、貴賤貧富、利害得失、老若男女にかかわらず、
「喫茶去」(まぁお茶でも飲んで下さい。)と言った僧侶がいました。
誰に対しても等しく「喫茶去」と唱える事を疑問に感じた者が僧侶に尋ねました。
「なぜ皆に等しく喫茶去と仰るのか?」
すると僧侶は答えました。
「喫茶去」(まぁお茶でも飲んで下さい。)と。
誰に対しても構えず恐れず無心で接する。
私はこれが人が人に出来る究極のおもてなしと考えております。
お嬢様、
「本日は何か良い事がおありでございますか?」
「本日は何かお悩みでございますか?」
「本日は十数年ぶりのご帰宅で緊張されておりますか?」
如何なる状況でも当家での紅茶を楽しむ一瞬のひととき、一瞬の出会いを最高のものに…
私はそんな給仕が出来る使用人で在りたいと存じます。
お嬢様を目の前にしますと私は緊張してしまい、お話する事が恥ずかしくなってしまいますが…本日は少しお喋りが過ぎました。この辺りで失礼致します。
…
…!!
「しまった!」
「今日中にしなければいけないカクテルグラスのお手入れを時任執事から任せられていたことをすっかり忘れていました!!」
…
…「喫茶去…」
(まぁ、紅茶を一杯頂いてから取りかかりましょうか…)
…それでは改めてまして失礼致します。
古谷