最近、扉でのお迎え業務ではなく、お屋敷内にてお嬢様に給仕差し上げる機会が多くなりました。
夏の間は非常に暑く動き回ると汗が出てしまいますので、ベスト姿にて給仕させて頂いております。お嬢様の前での軽装をどうかお許しください。
さて、時にお嬢様は、私ども使用人の日々の持ち回りがどの様に決められているか不思議に思ったことはございませんか?
ハウススチュワードである田辺執事が決めているのか?
又はそのアシスタントである三神君が?
統括執事の鮫島執事が?
まさか大旦那様が自らお決めになっている・・・?
実は、そのどれでもないのです。
いえ
厳密に言えば誰が決めているのか『[b]誰も知らない[/b]』のです。
そう、大旦那様でさえも。
では、我々はどの様にしてその日の仕事を知ることが出来るのか?
実は『朝、目が覚めたとき』に枕元に置かれた『ある物』を見て知るのです。
その『ある物』は役職によって決められていて、我々はそれを見て判断いたします。
フットマンには「薔薇の花」が
執事には「手袋」が
紅茶係には「ティーポット」が
そして、
ドアマンには「ドアノブ」がそれぞれ置いてあるのです。
何も置かれていてない人間は、別の仕事か、その日はお休みと言うことになります。
もちろんそれぞれのアイテムは、我々が寝ている間に置かれている事になりますが・・・・・
実は、それを誰が置いているのかもまた、お屋敷の大きな謎のひとつなのです。
お屋敷が始まって以来、まだ誰も解明したことの無い謎です。
しかし、今回その謎に挑んだ者がおりました。
長岡と鬼頭でございます。
彼らは「お酒でも飲んで待っていたら、そのうち誰か来るだろう」と楽しく飲みながら、「ついつい油断して」楽しく寝てしまったそうです。
大失敗です。
そして朝目が覚めると、枕元には2本の薔薇が置いてあったそうです。
続いて挑戦したのが鮫島執事です。
しかしあの人は駄目です。
そもそも睡魔に耐えることが出来ません。
案の定、いつも通り眠りに落ちたそうです。
それどころか、「次の日は所用で休暇希望を出していた」ので始めから誰も来るはずがございません・・・!
どうしても気になったので私も挑戦することに致しました。
その日の昼に仮眠を取っての挑戦でございます。
手には私の大好きなネコの写真集が15冊。
机には濃いめのパピリオ。
これで、眠たくなるはずはございません。
合わせて、私は扉を背に腰掛け、窓には鈴を付けました。
これで何があろうと万全です。
しかし、誰もやっては来ません。
時間は、刻々と過ぎてゆきます。
そして、最後の写真集に手をかけようとした時、目覚まし時計のベルが鳴りました。
いつもの起床の時間です。
何とか寝ることなく、一晩を過しました。
ここで、疑問が一つ。
・・・ついぞ誰も来ることはなかったのです。
まさか、今日がお休みだった、と言うような訳はありません。
だとすると、無理やりお休みになってしまうのか?
私は眠たい頭を必死に働かせ考えますが、答えが出ず、首を傾げます。
っと、その瞬間、私の目の端に何かが映りました。
「まさか・・・・」
目をやると、枕元。
そこには
1枚の手袋が
綺麗に
置かれておりました・・・・・・・・