心温まる酒

敬愛せしお嬢様へ

窓の外をふとみれば、粉雪がひらひらと舞っている。
いつそんな光景を見ることになろうと不思議ではないほどに、冬が色濃くなりましたね。

冬の夜は何処までも静謐な深さがございまして、散歩など致しますと、温度も音もない、時間まで止まったようなモノトーンの庭園に、銀月の明りだけが冷たく降っている様子に魅入られてしまいます。
庭園から森へ、森から薔薇園へと、静寂を楽しみ、ついつい時間を忘れて散策してしまうのも実に趣き在る事でございます。

されど先日に、散歩中の姿を、夜を更かし星を眺めていたフットマンに目撃され、「お屋敷を彷徨う亡霊」の怪談話を生み出したばかりでございました。

いらぬ騒ぎを起こさぬよう、散歩の際は重々に用心いたします。
…もう一寸ぐらい、生命あるニンゲンらしく見れるように振舞いましょう。

さてさて

陽光には極端に弱くとも、冷気には異常に強い時任でございますが、やはり冬の夜は暖かい飲み物が美味しいものでございます。

もちろん筆頭に上げるべきは紅茶でございましょう。
夜の職務を終えたときなどに、堤がそっと皆に振舞ってくれるロイヤルミルクティーなど、心の奥まで癒される暖かさでございます。
あの、ほの甘く暖かなミルクティーを頂けるなら、ヒグマだって冬眠を中止して、お気に入りのティーカップ片手に堤の前へと整列すること間違いございません。

お身体を温めるならば、ホットワインやホットサングリアも最適でございます。
お嬢様の面前で申し上げるのも失礼ではございますが「ホットワインにするなら、安物ほどうまい」なんて言葉もございます。
あまり濃厚なものや、風味が際立ったものよりも、欧州の人々が水代わりに飲むようなテーブルワインぐらいのほうが、温めて更に風味が際立ったときに丁度良いようでございます。
ホットワインになさるなら、軽めの赤ワインをお選び下さいませ。

お鍋で軽く火にかけて頂いたり、近年は便利なもので、レンジなんて機械もございますね。
これらで、小さく泡がでるぐらいを限度に、湯気がたつ程度に暖めて頂いて、ブランデーやコアントローを加えてお召し上がり頂くのが良うございます。

余談ながら、時任はカプチーノ用のスチーマーという、蒸気を噴出する装置でワインを暖めます。
温度の調節も容易で、ワインが舌触りも滑らかに仕上がりますので、もし機会があれば(むしろ機械があれば)お試し下さいませ。

ホットワインというと赤ワインが相場ではございますが、白ワインでだってホットワインは楽しめます。
白ワインをやはり湯気が出る程度に暖めていただき、お好みでブランデー等を加えて頂くだけです。
こちらについては、時任はあえて、ブランデーに代わり「カルバドス」を加えて頂くことをお勧め致します。
更に、暖める時にも、りんごのスライスを投入して加熱しますと、酸味と甘みが加わり大変美味でございます。
白ワインとリンゴは大変愛称が良うございますので、いろいろお勧めでございます。

リンゴと相性の良い、暖まるお酒といえば、更に「ラム」を挙げたいところです。
リンゴのジュースをお鍋で温めて頂き、ラム酒(ゴールドラムぐらいが最適です)をお好みで加えて下さいませ。
身体がポカポカと温まる、ホットカクテルの完成でございます。
…ここに、生姜のシロップなど垂らしますと、その暖まり具合たるや、もはや危険域でございます。

また、冬の暖かいお酒として定番でございますのは、日本酒の熱燗。
とはいえ、日本酒がちょっと苦手という方も居られましょう。
だけどちょっと挑戦心が湧いたり、あるいは日本酒がお好きなれど、ちょっと変わった風味を…と仰せならば、暖めた日本酒に、少しだけライムジュースと砂糖をお入れください。ほんの一寸だけですよ?
驚くほど風味の変わった、日本酒ホットカクテルがお楽しみ頂ける筈でございます。
ライムの代わりに、柚子や酢橘をお入れ頂くのも絶品でございます。
また、日本酒を温めるときに、ミカンの実をひと潰し、徳利の中に入れておくのも美味しいです。

何ともとりとめもなく、お勧めの品を列記してしまいました。
お目汚しだったなら恐縮でございますが、このいずれかがお嬢様方にお気に召して頂けたなら、そしてお嬢様に暖かく冬をお過ごし頂けるなら、嬉しいことでございます。

冬の寒さもまた四季の彩りの一つにございます。
どうぞ、寒い寒いと屈することなく、優雅にお楽しみくださいませ。
だからといって、やせ我慢して風邪など召さないように、お願い致します。

お嬢様がいつの季節も、笑顔であられますように。

ただそれを願いつつ、筆を置かせて頂きます。

                                ――――――時任。