我が敬愛せしお嬢様へ。
緩やかに水銀計の目盛が短くなり、窓硝子の凍る朝も増えて参りました。
これから冬がやって参りますね。
薄雪と霜に染められる大地。空を閉ざす灰色の雲。真銀に染まる月。彩度を失う世界。
時任としては冬は好みの季節でございますが、唯一、お嬢様方が風邪などお召しにならないかだけは心配です。
どうかお嬢様の周りだけは暖かく、初春のごとき新緑色の世界が包みます様。
…いや、そんなん無理なのは存じておりますゆえ、どうか温かい上着を羽織り、お布団を早々に一枚増やしてくださいませ。
お嬢様の笑顔なしには。使用人一同とても冬を乗り越えかねますゆえに。