番外編/秋の夜長にカクテルを

わが敬愛せしお嬢様へ。

あの陽光の横行する夏が嘘のように通り過ぎ、季節は駆け足で秋へと移り変わりました。
ともすると冬へと駆け抜けてしまいそうなほど、一挙に肌寒くなっておりますゆえ、お嬢様におかれましては、お出かけの際きちんと上着をお持ち頂き、くれぐれもお風邪など召されぬようご自愛下さいませ。

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かくれんぼ

窓を開け放つと、まばたきするより速くわたくしの鼻孔に漂い入るものがございました。
朝のけがれない外気を彩るその香りは、またたく間にわたくしを幸福で満たし、秋であることを知らせてくれました。
目に見えない幸福という価値観は、同じく目に見えることのない香気によってもたらされることもございます。

さぁ、今年もあなたとのかくれんぼが始まります。わたくしが見つけるのが先か、それとも、あなたがどこかへ去っていくのが先か、ひとつ競争とまいりましょうか。
ねぇ、金木犀。

街中を満たす金木犀の香気のように、お屋敷にお帰りになるお嬢様方が、ささやかでも幸福に満たされますように。
伊織でございます。

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