迷子のままで

犬や猫、はたまた金魚や雀は、どんなことを思って日々を
過ごしているのでしょう。
彼らに、記憶するという能力があることは確かでしょうが、
その記憶の中に、思い出と呼べる類のものは存在するのでしょうか。
過去を思って一喜一憂する――それは人間だけの持つ心の作用なので
ありましょうか。

持っているのは、手帳にペンに歳時記ひとつ――。
嫁菜の花咲くあぜ道は、視界の限り通る者も稲刈る者もおりはしません。
こんな所で迷っているから、さみしい作り話ばかりが頭に浮かんで
くるのでしょう。
散歩とは、なにも無計画に歩くことではございません。ようやく学んだ
気がいたします。

お体を冷やされてはおりませんか。
すぐに温かなお茶をお持ちいたしますので、お声がけくださいませ。
伊織でございます。

“迷子のままで” の続きを読む