お嬢様への手紙~朝を司る者たち

我が敬愛せしお嬢様、ご機嫌麗しゅうございますか?時任でございます。

つい先日まで、街行く人々は外套の襟を合わせ身を縮めて居られたというのに、
もう既に世は夏の薫りすら感じられるようでございます。
今年の季節は例年にも増して気紛れであられるようですね。まるでお嬢様のよう
…あ、いえ、失言でございました。ごほんごほん。

とはいえ、まだ陽が落ちれば肌寒くなる日もございます。また、急な雨の日もご
ざいましょう。
どうかお嬢様、当分はご面倒でも、肌寒くなられたときに羽織って頂く御召し物
と、傘の御用意は怠らぬようお願い申し上げます。

この季節に生き生きと咲き誇る庭園の華々のようなお嬢様の笑顔は、我ら使用人
の何にも代え難き慶びにございます。

その笑顔が曇る事なきよう、くれぐれも御身ご自愛下さいませ。

…それでは、毎回口喧しい事を申し上げましたが、これより後はいつものごとく
戯れ事にございます。
おやすみ前のひと時などに、ナイトキャップと共にお楽しみ頂ければ幸いにござ
います。

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タマキ イン ワンダーデザート

気がつくと辺り一面砂漠でした。

どうしてこんなところへ飛ばされてしまったのか・・・。
ただ遠矢にケーキを買ってあげようと街を歩いていただけなのに。
とりあえず考えていても仕方がないので歩き出さなければ。

しかしどこを見渡しても清々しいほど何もないな。
このままではケーキどころか飲料水さえ確保できずに
倒れてしまいそうだ。
そう思っていた矢先、『ポンッ』という音と共に私の前に何かが・・・。

「ん?これは・・・泡だて器?」

『ポンッ』

「今度は生クリームとスポンジですか。」

『ポンッ』

「さらにオーブンねぇ。」

『ポンッ』

「極めつけはフルーツってわけか。」

『ポンッ』

「まだ何か・・・あ、ただの本郷さんの声マネだった。」

~中略~

さて、一通り材料が揃ったわけだが・・・。
これでケーキを作れと。
しかもこの暑い中で作れと。

やや設定に雑味を帯びてきましたが、
多分作らないとこの先へは進めないのでしょう。
なんとなく物語の主人公の気持ちが分かってしまいました。
まぁとりあえず作ってみましょう。

「・・・出来た。」

ここはなぜかすんなり出来ました。
我ながら見事なショートケーキです。
後はこれを遠矢にプレゼンすれば良いので・・す・・が・・・。

「・・・さ~ん、た~ま~き~さ~ん。」

ん?この声は遠矢の声。

「どうしよう、ぜんぜん起きないや。じゃあこのやかんで・・・。」

「おはよう。」

「起きてるじゃないですか~。心配しましたよ~。
 街で倒れてるのを偶然見つけてお屋敷まで運んできたんですよ~。」

どうやら倒れていたらしい。
しかし遠矢のどこにそんな力があったのだろう?
ん~恐るべし。

「後、これもそばに落ちてましたよ。」

こ、これはもしやケーキの箱ではないか!?
どうやらあの暑い中作った記憶は夢ではなかったらしい。
これをプレゼントすれば遠矢はきっと喜んでくれるに違いない。
そして、私に永遠の愛を誓ってくれるに違いない。

「ゴホン。」

「と、遠矢君。これは君にプレゼントだよ」

「わ~い、一体なんでしょう?開けてみていいですか?」

「もちろん。」

そう、その箱を開けたらほ~ら遠矢の笑顔が・・・ん?
あ、あれ?なんか笑顔が引きつってるぞ?

「環さ~ん・・・」

この反応はまさか・・・。

中身溶けてるじゃないか!
さすがにこれは遠矢でも受け取りにくいであろうユルユルの状態で
ケーキが箱の中に入っていたのであった。

「あの~、せっかくプレゼントしていただいたのに申し・・・」
「遠矢君、パーティーの準備できたよ。」

遠くから聞こえてきたのは雪村の声。

「環さんごめんなさい、もう行かなくちゃ。気持ち嬉しかったですよ。」

そう行って遠矢は駆け足で廊下の奥へと姿を消してしまった。
残されたのは残念なケーキと同じくらい残念な私。

きっとこの不思議な経験もいつか私の糧となるに違いない。
そう、強がっていた私の横にある扉から『ポンッ』言う音が・・・。
この音は確か砂漠の中で聞いた音。
これはきっと傷ついた私にも良いことが起こる予兆なのだ。
この扉を開けたらきっとそこには良いことが・・・!!!

「ヨォォォォ、ポンッ!!!!!!!」

「・・・本郷さん、こんな時間に鼓の稽古しないでください。」

~Fin~