宝塚のお話し

あゝ、とうとう別れです。寂しい限りです。花組一筋に頑張ってこられたタカラジェンヌ春野寿美礼のサヨナラ公演です。又宝塚の舞台から美しい星が旅立って行きます。
今回の公演は観られないと思っておりましたが、チケットを入手することが出来まして、観劇することがかないました。
サヨナラ公演はミュージカル・ピカレスク「アデュー・マルセイユ ~マルセイユへ愛を込めて~」。

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時は金なり、と申します。

皆様、ご機嫌いかがでございますか?
さて、前回は戯曲の台詞で幕を下ろしましたが、今回は、逆に引用から始めさせていただきます。

「ボルジア家の圧政はルネッサンスの芸術を生んだが、スイスの平和が生み出したものはなんだ? ……鳩時計さ」

とは申しますものの、精巧な機械式時計もまた、偉大な発明であることにまちがいはございません。
そして、私の日課ともいえる仕事の一つに、この時計は深く関わってくるのでございます。

当家には申すまでもなく、電池で動く、一年に一秒も狂いのない最新式の時計も導入されておりますが、やはり書斎や客間などには、スイス製を始めとする四十近くの旧式の機械時計が置かれております。
戦前から伝わる物も多く、なにしろ数がございますので、その全ての時刻を正確に合わせ、かつ手動でネジを捲くのは、なかなか手間がかかります。一日の内、約一時間はその仕事にあてなければなりません。
これは余談ではありますが、英国バッキンガム宮殿でも、同様の仕事をなさっている方がいらっしゃるとか。そのお方は、三百ある時計の時刻を合わせるため、一日八時間をあてているということでございます。
皆様方がご予定を把握し、かけがえのない時間を寸秒と無駄にさせてしまわないためにも、この日課を欠かすわけには参りません。
いささか単調、ともいえる仕事ではございますが、執事にとっては重要きわまりない任務でありまして、これにもやりがいを感じております。
当家において、もし、万が一狂っていたり、止まっている時計がございましたら、これは不覚にも私の失態でございますので、すぐに司馬をお呼びくださいませ。ただちに駆けつけて、正確な時刻にお直しいたします。
それでは、今回はこのあたりで失礼いたします。
皆様方、どうぞお風邪など召しませぬように……。