『始まり』という事

 子供の頃、父に買ってもらった「ことわざ辞典」
その最初の1ページ目、その3つ目の項目に書かれていたことわざが

―会うは別れの始め―

でございます。

これは、人と出会えば必ずその人との別れが訪れるという意味でございます。

私は子供心に「なるほど!」という納得と同時に、人の人生の中に深く根を張った運命のような力を感じ、何だかやるせない様な寂しい気持ちになったことを覚えております。

出会ったその瞬間から別れが始まるのです。

頭では解っていても、どうにも受け入れることが出来ません。
大好きな人たちと過ごす、忙しい毎日。
この何気ない日常がずっと続くと思っていた・・・・
そう思うのは、当然の事でございましょう?

しかし

変わらない毎日などこの世には存在しません。

前に進むからこそ、変わろうとするからこそ、「人間」なのです。

 このほど、鮫島がイギリス留学へ、伊織が通称『穴ぐら』へと行くこととなりました。
もちろんこれは、ことわざで言うところの『別れ』ではありません。
会おうと思えばいつでも会いに行ける。

しかし、何気ない日常、その「一部」との別れであると考えられます。
何となく寂しいですが、彼らの新しいステージでの成功を願うばかりです。

人は長い歴史の中ではなく、その短い生涯の中で大きく進化する生き物です。

私は留学にも穴ぐらにも出稼ぎにも参りませんが、だからこそ彼らに負けない様に前に進みます。

ふと後ろを顧みた彼らが、安心してこれからの執務に集中できるように。

いつもはお嬢様方に向けて申し上げる言葉ですが、今夜ばかりは彼らに向けて使用することをお許し下さい。

新たに始まるあなた達に・・・

―行ってらっしゃい―

お屋敷の秘密~おまけ~

 さて、最近お嬢様は私を見かけると、「久しぶりに顔を見た」でありますとか、「椎名に迎えられるのは一ヶ月ぶりだ」等と仰います。
果ては「倒れていたのかと思った」と心配までさせてしまう始末。
どうかお嬢様不幸者の椎名をお許しくださいませ。

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良い場所を見つけ ~ インドア・トレーニング その3

時折肌寒さを感じる季節になってまいりました。
お嬢様はお風邪など召されてはいらっしゃいませんか?
私も風邪など引かぬ様、もやしっこ小野寺と共に今のうちから何か対策をしておかなければと思案しております。

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星のカケラ

 地球上に電灯が灯るようになってから、まもなく130年経とうとしております。
世界初の白熱灯、人類が手にした新たな光です。
しかしその瞬間から空の星は少しずつ、少しずつとその数を減らし続けました。
今や街で満天の星空を眺めることは叶いません。

でも、星は変わらずそこにあります。

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不思議な夜

先日のことでございます。
「たまには夜の散歩も良いだろう」と思い立ち、出かけることにしました。

最近は肌寒さもなくなり、心地の良い風が吹き抜けていきます。

久々にゆっくりと歩く夜道は、湿り気を含んだ空気と共に私の心をしっとりとほぐしてゆきます。
辺りで鳴く虫の声が意外に大きいことに驚いたり、月が満月であったことに気がついたり・・・
普段の忙しさにかまけ、この様な事にも気付かなくなってしまっていた自分に少し反省してしまいました。

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