伝わらない気持ち、伝わる気持ち

 先日、紅茶サロンにご参加くださいましたお嬢様方、ありがとうございました。
私も今回講師の一人を務めさせていただきましたが、普段あの様な大勢のお嬢様方の前でお話する機会もありませんので、大変緊張いたしました。
ちゃんと、お話が伝わっていれば良いのですが・・・・いささか不安も残っております。
普段は研修でフットマン候補生相手に教鞭をふるっている所為か、ついつい話が乗ってまいりますと、まるで候補生を相手にしているような錯覚に落ちいってしまいます。
もし、疑問等ございましたら、何なりとお尋ね下さいませ。

今回ご参加下さらなかったお嬢様も、また次の機会がございましたら、前回以上の充実の内容でお届けしたいと思いますので、ぜひお付き合い下さいませ。

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動き始める季節

 寒暖の差が激しい日々が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?
たまの暖かい日などは、サンドイッチでも持って、庭で何も考えず時間を過したいなと思う椎名でございます。

わたくし椎名、この度大旦那様より統括執事の任を仰せつかる事となりました。
改めまして、ご挨拶申し上げます。
お嬢様方には少しでも有意義なお時間を過して頂けます様、今まで以上に執務に勤めてまいりますので、どうか宜しくお願い致します。

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春の香りのする季節となってまいりました。
気温もようやく温かくなってきて、椎名の手からは手袋が。
首元からはマフラーが旅立って行きました。(マフラーはまだ不安ですので鞄に忍ばせていますが・・・)

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お屋敷に秘密 その2

 さて、本日はお嬢様の住むお屋敷について振り返ってみましょう。
当然ご自身の家でございますから、「何を今更」とお思いのことでしょうが、中には久しく帰って来て下さらない不良お嬢様もいらっしゃることでしょうから、そんなお嬢様は懐かしんで、いつも帰ってきて下さるお嬢様はご一緒にイメージして頂けると幸いでございます。

 当家は東京都豊島区・・・・
あまり詳しく書くと盗賊が忍び込んでくるかもしれませんので、池袋の閑静な住宅街の一角に当家があるとだけ申しておきます。

その敷地は実に広大です。
東京ドームがいくつも入ってしまうほどです。
まず正門を抜けると、目の前に悠々と車が行き交うことの出来る道が一本。
これがお屋敷に続く大通りとなります。
この道をまっすぐ進んだおよそ敷地の真ん中よりやや奥手側に本館と言われるお屋敷があります。
お嬢様にとってのご自宅でございますね。

以前この道のりを『全力疾走で何分で着くか』ということに長岡君が挑戦いたしましたが・・・・
数分後、途中の道端で貧血で冷たくなりかかっている彼を大河内君が発見いたしました。

それほど、広いのです。

やはりここは、車や馬車、もしくは田辺執事のように自転車を使うのがよろしゅうございましょう。

 その広大な敷地には、お屋敷のほか、庭園があり、馬屋があり乗馬施設があり、池などもあります。
私どもの生活する宿舎もこの敷地内にあります。

使用人の宿舎から大通りに向かう道の左手には、通称『体育館』と呼ばれる総合施設があります。
その中には、武術道場や温水プール、スポーツジム等があります。
このジムに熱心に通うのが藤堂執事と響執事ですね。お嬢様も一度足を運んでみてはいかがでしょうか。藤堂と響の肉体を競い合う姿を見る事が出来ましょう。
 また、そういったスポーツ施設の他に図書館(大旦那様の書斎を使用するわけにはまいりませんので。)や簡単なシアタールームまで備わっております。
体育館が使用人宿舎に近いのは本館の近くにあると美観を損ねるから、また普段の移動手段が徒歩の我々でも利用しやすいようにとの、大旦那様のお心遣いでございます。

因みにここにあるシアタールームと、『本館』にある大旦那様やお嬢様用のシアタールーム、リスニングルームの管理は椎名の管轄でございます。
自分の趣味を仕事にさせていただける、大変素晴らしいことでございます。
ただ、熱が入りすぎてチューニングに没頭しすぎることもしばしば・・・
ふと気が付くと横で司馬執事が三角座りをして、あのつぶらな瞳と髭で私を観察していた事に気付いた時には大変驚きました。

もし、椎名を見かけなくなりましたら、他の重要なお仕事か、候補生の育成か、猫。
またはシアタールームに籠もっているとお考え下さい。

話がズレてしまいましたので戻しましょう。

 さて、最後にご紹介するのがお嬢様がいつもお帰り下さる『あの場所』でございます。
こちらは正門から歩いてすぐの所にあります、『ティーサロン』でございます。
お茶の為にお戻りになるお嬢様に、わざわざ長い道のりを移動していただくわけには参りません。

ですので、お気軽にお戻り頂き、ひと休みしてまたお出かけし易い様に、正門付近に建設されました。

 普段別宅で生活し、こちらにしかお顔をお見せ下さらないお嬢様、たまには本宅に足をお運びになるのはいかがでございましょうか。
きっと大旦那様もお喜びになるはずでございます。

今回ご紹介したのはほんの一部、まだまだ他に沢山あります。
お屋敷の裏手にある裏庭や鬱蒼と生い茂った森。
さらにそこを抜けるとある、裏山等の秘密についても触れたいところですが、本日はここまで。
またの機会にお話したいと思います。

『始まり』という事

 子供の頃、父に買ってもらった「ことわざ辞典」
その最初の1ページ目、その3つ目の項目に書かれていたことわざが

―会うは別れの始め―

でございます。

これは、人と出会えば必ずその人との別れが訪れるという意味でございます。

私は子供心に「なるほど!」という納得と同時に、人の人生の中に深く根を張った運命のような力を感じ、何だかやるせない様な寂しい気持ちになったことを覚えております。

出会ったその瞬間から別れが始まるのです。

頭では解っていても、どうにも受け入れることが出来ません。
大好きな人たちと過ごす、忙しい毎日。
この何気ない日常がずっと続くと思っていた・・・・
そう思うのは、当然の事でございましょう?

しかし

変わらない毎日などこの世には存在しません。

前に進むからこそ、変わろうとするからこそ、「人間」なのです。

 このほど、鮫島がイギリス留学へ、伊織が通称『穴ぐら』へと行くこととなりました。
もちろんこれは、ことわざで言うところの『別れ』ではありません。
会おうと思えばいつでも会いに行ける。

しかし、何気ない日常、その「一部」との別れであると考えられます。
何となく寂しいですが、彼らの新しいステージでの成功を願うばかりです。

人は長い歴史の中ではなく、その短い生涯の中で大きく進化する生き物です。

私は留学にも穴ぐらにも出稼ぎにも参りませんが、だからこそ彼らに負けない様に前に進みます。

ふと後ろを顧みた彼らが、安心してこれからの執務に集中できるように。

いつもはお嬢様方に向けて申し上げる言葉ですが、今夜ばかりは彼らに向けて使用することをお許し下さい。

新たに始まるあなた達に・・・

―行ってらっしゃい―