ホット オレンジジャスミン ハイボール

敬愛せしお嬢様へ。

季節はいつも駆け足でございます。
ちょっと肌寒くなってきたと秋用にジャケットを購入してみれば、瞬く間に世間は凍りつくような冬になり、コートが手放せない季節になってしまいました。

この秋用ジャケットは来年までしまっておきましょう。
と申しますか、来年も思い出してこのジャケットを引っ張り出した頃には冬になっていそうな気が致します。

美しい紅葉ももう散ってしまうのでしょうか。
ようやく銀杏が色付き始めた頃に、暇を寄り集めてスケッチに出掛けて描き始めた紅葉の絵もまだ描き終わっていないのですが。

なにかと忙しい季節の流れに毎年驚きながらも
お嬢様が暖かくお過ごしいただけているか心配になる

そんな季節でございます。

なので、暖かくお過ごしいただけますよう。
ちょっとしたホットドリンクのオリジナルレシピをお届け致します。

ご用意いただくのはジャスミンティー。
そしてオレンジでございます。
400mlほどお作りになるなら一個で充分でございます。
甘味があると風味が生きやすいので、お好みでお砂糖もご用意ください。

まず、お鍋でジャスミンティーを作るお湯を沸かします。
余分なお湯がでないよう、少なめに沸かすのがコツでございます。

お湯が沸きましたら火を止め、ジャスミンティーの茶葉を投入いたしましょう。
オレンジと別途引き上げられるよう、ストレーナーかネットなど掛けるのがお勧めでございます。

そして、櫛切りにしたオレンジも投入致します。
櫛切りにしたオレンジは、皮をナイフで剥き、皮内側の白い部分を極力削ぎ落としてから、皮も湯に投入いたしましょう。
実の部分はごく軽く潰してから投入するのが一番宜しゅうございます。

そして蒸らすこと暫し。
お火傷しないように気をつけながら、耐熱のサーバーやポットに移して、お気に入りのカップと共に寛ぎの間へと移動しましょう。
茶葉はお好みの時間で引き上げても良うございますし、あえて変わって行く風味を楽しんでも良うございます。

そのまま飲んで爽やかなオレンジジャスミンティーを楽しんでも良し。
シロップを入れてみてもまた美味でございます。

ナイトキャップのお酒として楽しむなら、ウィスキーやコアントローをお好みで垂らしてくださいませ。
スプーンなどでオレンジを潰しながら飲んでいただいても、なかなか美味しゅうございます。

冬の夜にお体を暖めるホットドリンク。
ご別宅のティータイムにぜひお試しください。

あ。

ミカンを使っても美味しいです。
その場合は皮は入れないでくださいませ。

小さなクリスマスローズ

敬愛せしお嬢様へ

早くも冬の気配が少しずつ増している日々、いかがお過ごしであられましょう。
側仕えに命じ、暖かなお召し物を早めに揃えさせるのがよろしゅうございます。
お体冷やしませぬよう、ゆめゆめお気をつけくださいませ。

さて。

前回の日誌でも触れさせていただきましたが
時任は古着や古書店、ユーズトショップなどを巡るのが趣味のひとつでございます。
ちょっとした掘り出し物を発見する宝さがしのような楽しみもございますし、時折見かける意味不明のアイテムを検分するのも楽しゅうございます。

先日は高名なるカエルの人形「ケロヨン」様の等身大サイズが格安で販売されており、購入するか否か、珍しく半刻ほど悩みました。

汚れ具合や錆び具合からして、昭和も浅き頃の銘のあるカエルとお見受けしたのですが。

お屋敷のどこにも置き所がないという事実に気がつき、なくなく諦めた次第でございます。

…ブルームーンが蘇った曉には改めて購入し、入り口に飾るといたしましょう。

さて、先日もお休みをいただき、のんびりとお散歩てがらお店回りをして参りました。
時勢もございますので平日の午前中~お昼過ぎの余人が居ない時を狙って出掛けております。

時勢と申しませば、かの病禍にて訪れた自粛生活は色々と波及しているようで、
古着屋さんには店員さんが置き場に困るほどの品が溢れており、いまが買い時のようでございますが
古書店様は本が売れ過ぎて在庫に困っておられました。経済の縮図はこんなところでも散見できるものでございますね。

この日の私のお目当ては…ティーカップ。
ユーズドにも、いえ、ユーズドだからこそ、もはや手に入ることはないと諦めていたカップも案外見つかったりするものでございます。

残念ながら、この日はそんな掘り出し物には恵まれませんでしたが、エインズレイのコテージガーデンにて見たことのないカラーバリエーションを見かけて30秒ほど悩みました。

強いて言うなら茶色と言うべきですが
色が深く渋く、茶道の茶器にでもありそうな色。

「このコテージガーデン、公式には何色なのですか?」
「…何色なんでしょうね?」

店員さんに疑問形で返されました。
凄く渋くて気になりますが、見送ることにしましょう。

渋いと言えば、ノリタケ「岩手山の呼子鳥」も見かけました。
和の落ち着いたデザインで、リリスやいいあんばいなどお飲み頂くにも良さそうなカップでございましたが、15秒考えた結果、やはり渋すぎるので見送りでございます。

今回、特に留意して探しておりましたのはロイヤルアルバート。
フラワーオブマンスを揃えておきたく、探し回っておりました。

探しておりましたら

ありました。

美しいクリスマスローズの絵柄。

ケースから出していただき、歓喜に震える手で傷などないか検分しておりましたが。

…ん?
……なんか、小さいですね。

コーヒー用でした。

他のものと並べると一目瞭然なのですが、確実にわんさいず小さいのですね。

諦めず、いつの日にかお嬢様がたにもお喜びいただけるようなカップを見つけてきたいと思います。

何でこれを買ったんだろう

敬愛せしお嬢様へ。

ようやく秋の気配が見えて参りました。
例年でございますとまた、駆け足で秋が過ぎ去り、瞬く間に冬の寒さに閉ざされそうな気が致しますが。

なんにせよ気温は徐々に下がってくるかと思われます。
どうかお体の調子を崩されませんよう、お召し物は一枚余分にお持ちくださいませ。

お召し物と言えば。

お嬢様も社会勉強に出られて、お買い物で悩まれることもございますでしょうか。
逆に、時にはつい勢いで購入してしまったと言う、いわゆる「衝動買い」というものもご経験済みかもしれませんね。

私事で恐縮ながら、時任は買い物を悩みません。
買うなら買う、買わないなら買わないでだいたい10秒ぐらいで決定します。

時間が掛からないのは良いことですが、
物事は反面があるもので、充分な検証を重ねず購入した結果「何でこれを買ったんだろう」とあとで自身で首を傾げる「衝動買い」も少なからずございます。

これは多方面にわたりますが、もっとも多き分野のひとつは、意外に感じられるかもしれませんが「服」でございます。

趣味のひとつに「古着屋巡り」がございまして。
ついつい変わった服、気になった服を見つけると迷わず買ってしまう癖がございます。

結果として

時任のクローゼットには「これをいつ着るのだ?」と頭を悩ませる謎の服が何着もある次第でございます。

ですが、そんな行く先のない服たちも。
当家ハロウィンにおいてはたまに役立ちます。

昨年の衣装も本年の衣装も実は、用途に困っていた衝動買いの服を引っ張り出してきたものでございます。

あと何着あるんだろう。

……テーマにもよりますが、あと数年はハロウィン衣装には困らなそうでございます。

共に杯を掲げる日を待ちながら

夏はいつまで続くのかと、太陽を恨みがましく見上げるのと同じように。

この病禍はいつまで続くのだろうかと、

友人たちや仲間たちが拓いた小さな城のようなバーや、敬意を以て通い、多くのインスピレーションを得てきた素晴らしいバーが次々と門を閉ざしてゆくのを、まるで訃報を聞くような思いで受け止めつつ、思いを巡らせております。

もちろん、世の病禍の広がりを防ぎ、いつか終息を迎えるために、不必要な会食等は避けるべきでございます。
一方で、経済を動かし自粛期間に耐え抜いた庶民たちに救いの手を差し伸べていただく必要もあり。

全くもって今の世はアンビバレンツの渦中にあるようでございます。

私ごとき一使用人にできますことは
一人の民として出来うる限り感染の危機を避けながらも、一人の民として出来る範囲で、危機を避けた上で経済を回すことであり、

具体的には他にお客様がおられないバーで、主の愚痴を聞きながら、やや高いお酒を美味しく頂くぐらいでございます。

つまり。

今宵の深酒は社会のため。
決して私心はございません。

たとえ迂闊にも、クリームチーズとトラピスト系黒ビールの美しすぎるマリアージュに心奪われて、お代わりが止まらなくなってしまっていても。

ええ。あくまで社会への奉仕に過ぎませんとも。
あ、なのでお代わりお願いします。あ、クリームチーズとクラッカーもね。

小さかろうが大きかろうが、
挑んだ夢に貴賤はございません。

願わくば僅かでも
彼らの救いが多く在りますように。

夏に抗う小さな足掻き

敬愛せしお嬢様へ。
暦も8月に入り、この駄文がお目に触れる頃には
大概に梅雨も明けていることでしょうか。

そうなると青空と輝く太陽。
漸く「夏」と呼ぶにふさわしい気候がやって参ります。

しかしこの「夏」の気候が私的に大層苦手でございます。

まず日光。
生来もともと日光は得意な方ではありません。
眩しいのが嫌いで、長時間日光に当たると気分が悪くなり、日に当たるだけで肌にチリチリと痛みを感じ、日射病などにも弱く。
幼き頃から地下で生きていくよう定められていたかの如くでございます。

なにより、日焼けが厄介です。
ビックリするぐらい日焼けします。
うっかりすると人種が変わります。
しかも、ほんの僅かな日光で焼けてしまいます。
徹底的に日光を避け、日焼け止めを用い、日光下では常に日除けをしていても、毎年一般の子ぐらい焼けてしまいますので、努力を怠ったらどうなるか知れたものでございます。

そして暑さ。
いえ、暑さには強い方でございます。
ですが。
汗が厄介でございます。
日焼け止めとセットになると、私の眼球を執拗に攻撃する凶器へと変貌いたします。

これらに抗うべく。
夏季はとにかく可能な限り地下から動かぬつもりでございますが。
生活上、そうもいかぬことも多うございます。

そこで。毎年奇策を練っては夏に抗っております。

ペットボトルを凍らせて所持しておく。
これは社会において発見された非常によき方法でございます。
これを転用すべく考えまして、
サイズを考慮いたし小さなポケットサイズのパックドリンクをいくつも凍らせて、ポケットに忍ばせておきました。
なかなか快適でございます。

心臓部に当たるように、胸にポケットのある肌着を使用したり、首後ろや太股など冷却効果の高いところに当てておけないか苦慮してみましたが、
これは明らかにシルエットがおかしくなるので断念いたしました。

代わりに今注目しておりますのが、
冷却力・保冷力が非常に高いタオルというものを入手いたしまして、これの活用を考えております。

冷やしたタオルというものは、暑い日に心地よいものでございますが、すぐぬるくなってしまいます。
しかしこのタオルは、お手にとって振り回していただくなど風に当てますと、協力な冷却力・保冷力により冷蔵したように冷たくなるのです。

タオルをどこで振り回すかが難点でございますが、私事で出掛ける際などは重宝しております。

しかしお屋敷の勤めに応用するには困ります。
唐突にタオルを振り回し始めたら大惨事でございます。
タオルは衣服の下に仕込むのは容易なれど、出し入れを頻繁にするのも難しゅうございます。

そこでさらに一計を案じ。
タオルにハッカオイルを染み込ませて、衣服の下に仕込んでみました。

死にかけました。

お嬢様、暑い日にハッカオイルで涼をとるなんてよく聞きますが、あれは危険でございます。
「寒いような感覚を強烈に与えている」だけでございますので、効く人には効きますが駄目な方には「暑いのに冷たい」というダブルアウトな感覚に襲われることになります。
真夏と真冬の駄目なところだけ総取りでございます。

あと、ハッカオイルの濃度にはくれぐれもご注意くださいませ。

いろいろと奇策を練ってみたものの、
涼しい地下から動かないのが一番のようでございます。
お嬢様がたも、灼熱の地上で我慢なさらず、
一刻も早くサロンにて涼しいティータイムをお楽しみくださいませ。

あ。

シェフにご協力いただき、超低温冷凍庫でスピリッツを凍らせて所持する奇策はかなりひんやり致しました。

執事服が凍りましたけどね。

人の暮らしというものは

敬愛せしお嬢様へ

なかなか来ないくせに、一度来ると今度は居座って帰らない。
梅雨というのは、まるで厄介なお客様のようでございます。

世を脅かす流行り病にも、もちろん重々にお気をつけ頂きとうございますが、湿度や温度差に体調を崩しやすい季節でございますゆえ日常に於きましてもどうかご自愛くださいませ。

さて。
ご自愛ご自愛と私どもよく申し上げますが、
具体的に何をすれば良いのかと仰せかもしれません。

お体を冷やさない、手洗いうがい、バランス良きお食事。もちろん色々とございます。
そして何より、しっかり睡眠をとっていただくこと。これが肝要かと存じます。

降って湧いたような、流行り病による自粛期間。
いつかまたお仕えを再開する日に向けてと、ひたすらにトレーニングと学習に時間を向けておりましたが。
それに加え。我ながら呆れるぐらい寝ておりました。

朝は起きるのです。起こされます。起きて朝食を採り、運動して入浴しないと落ち着きません。
そして力尽きるまで体を鍛え、学問を学び、家事を行い。
短時間で力を使い果たしたあたりで、お布団に誘われ「いいから寝ろ」と寝かしつけられ、パタリと眠ります。

お昼ぐらいに起こされて、昼食を作り、軽く水を浴び、運動して勉強して。そしてまた寝かしつけられます。

空が茜色になる頃。また起こされて。
食材を確認し、必要なら散歩てがら買い物に行き。
夕食はちょっと時間をかけて作り。
食事・読書・運動・入浴と終えるとまた寝かしつけられます。

……一日の2/3ぐらい寝ていた気が致します。
人としてどうなんでしょうか。

さて
「起こされる」「寝かしつけられる」と
第三者によって生活を管理されているかのような記述が多々見られますが、
これは何者かというと、うちの猫たちです。

起こされます。これは今でも朝は起こしに来ます。
下手な目覚ましより正確です。

そして私が疲れていると、布団に行けと訴えます。
ぺしぺし叩かれます。引っ張られます。押されます。あげくに噛まれます。
お布団の上に横になると、頭を抑え込まれて寝られます。
今もやられます。
大変暑いですが、お構いなしのようです。

思えば、あの季節。
人ではなく猫のペースで生活していたのかもしれません。
起きたら、配分など考えず全力で体力を使いきり、
そして寝る。この繰り返し。

お仕えすることが叶わぬことや、何一つ進められないことに対するストレスは多々ございましたが
健康面に関しては、呆れるレベルにまで頑健になりました。

お嬢様。

人の暮らしと猫の暮らし。双方を知る私が申し上げます。

睡眠は大切です。
心身になにがしの故障を感じたときは、何より良く寝るに限ります。
世間には人としての暮らしが戻って参りましたが
もし満足な睡眠を脅かされる生活があるならば、それは我慢なさらず改善すべきです。

高潔な意思や使命のために我慢なさることも多うございましょうが。

それはゆっくりと確実に、ご自身という財産を削っておられることもお考えください。
そして、ご自身という財産が失われたとき、誰が悲しむのかも。

……笑いをとるつもりが、なぜかシリアスなお話になりました。

ところで。
なにかと良く寝て。
そして人をなにかと寝させようとする猫たちですが。

エジプトや北欧などの神話において、猫は「夜の守護者」「眠りの守護者」と位置付けられております。

人の眠りを守り、眠りのなかで人を癒し
悪い夢を近づけず、眠っている間に悪しき者を追い払うのだそうです。

今日も頭に乗ってきて、ゴロゴロ言いながら人を寝させようとする猫と。
足の横に張り付いて、くるんと丸くなって、物言いたげにじっと見てくる猫に。

そうか。今も守ってくれているのかと、感謝を感じなくもありません。

暑いけど。

使用人は進化した!

敬愛せしお嬢様へ

冬から春だけではなく、春から夏に至る季節にも
気温の階段があるのでしょうか。
暑かったり寒かったり、朝が来る度にお召し物のご用意をどうするべきかお側仕えの者たちが悩んでしまう季節でございます。

さて。世の災禍のためとは言えど、随分と長く渡り休館の日々を頂いてしまいました。
さぞご不便をお掛けしたことと思います。
申し訳ございません。

お会いできない日々、お嬢様はどのようにお過ごしであられましたか?

使用人たちも再びお仕えできる日を待ち焦がれながら、それぞれにこの二ヶ月ほどを過ごさせていただきました。

知識の蓄積に充てた者、トレーニングに励んだ者、
はたまた新たな技術の習得に挑んだ者。

聞き及ぶ限り、皆たゆむことなく当家の使用人たる修練に努めていたようでございます。

男子三日会わざるば刮目して見よなどとの金言もございますが。
この二ヶ月使用人たちが如何なる進化を遂げたかもぜひ刮目してご覧くださいませ。
驚愕の変化を遂げた使用人も居るかもしれませんよ。

それではお嬢様。
暦が水無月に変わります頃。
今度こそはティーサロンの門を開き、お戻りを皆でお待ちしております。