新たな年を迎え

敬愛せしお嬢様、お坊っちゃまへ

新年明けましておめでとうございます。
本年も使用人一同、お嬢様、お坊ちゃまの使用人たるに恥じぬよう努めてまいりますゆえ
どうかよろしくお願い致します。

思えばお屋敷にティーサロンが設えられてからも、随分と長い年月が過ぎました。

時の流れに伴い、お屋敷にも様々な変化がございましたが
初代ハウススチュワードが大旦那様より仰せつかり、代々の使用人たちに脈々と受け継がれていく使用人の志たるものは、色褪せず銀の蝶の中に輝き続けております。

昨年に数度、お屋敷の皆にて使用人の心得について話し合う機会がございました。
それが現れる形もひとりひとり違えば、そもそも個々が出来ることも違いますゆえ、
思わぬ使用人の思わぬ想いに驚くことも多うございましたが

使用人たちは皆、お屋敷とサロンを深く愛しているのだということを、改めて知ることが出来ました。

新しき年の我々の目標は、スワロウテイルの名に恥じぬ使用人たることでございます。
また道に迷う時も、想いがすれ違うこともございましょうが、
お嬢様、お坊ちゃまに相応しきティーサロンを保てるよう、開館の日よりまた全力でお迎えさせて頂きます。

どうか、お早いお帰りをお待ちしております。

温かいビール

敬愛せしお嬢様へ

年の瀬も迫るこの頃、冬の寒さもギアを上げてきたようでございますが
寒さに負けることなく元気にお過ごしであられますか?

冷える夜、別邸にお戻りになった時など
お体を温めるのにホットミルクティーもようございますが
温かいお酒も、お休み前などには宜しゅうございます。
近頃はホットワインの文化も日本に馴染みまして、マーケットなどで目にする機会も増えてまいりましたが
同じ北欧•西欧の生まれながら意外とお見かけしないのが「ホットビール」にございます。

「ビールのホット!?」と驚かれる方も多うございましょうが、
クリスマスの宴では定番のお品でございますし、作り方も簡単でございます。
寒い夜のお休み前などに、ぜひお召し上がりください。

材料

お好みのビール200mlほど
(どちらかというと「エール」を書かれているものの方が作りやすいです。
一番合うのが当家で今ご用意しているアップルシナモンエールかもしれません。)
りんご1/8個ほど(薄切りにスライスするのがお勧めです。)
シナモン1本 (お鍋に入れる前に折ってください)
クローブ(ホールで2~3個)
蜂蜜お好みで(お砂糖でも構いません)
作り方
お鍋に全て入れて頂き、弱火でゆっくり温めて下さいませ。
ビールの炭酸が一斉に抜け、最初は細かく泡立ちますが、やがて収まります。
そのまま温めて頂き、湯気が立つぐらい温めたら完成です。(沸騰はさせないぐらいがベストです。)

お気に入りのマグカップに注いで、ゆっくりお召し上がりくださいませ。
他のフルーツやバニラ、キャラメルなどのシロップを加えても美味しゅうございます。
驚くべきことに、表面にホイップクリームを浮かべても意外と合いますのでお試しくださいませ。

お嬢様の冬の日々が、暖かなものでありますように。

バタースコッチの簡単な作り方

敬愛せしお嬢様へ

突然の冬の来訪に、人も草木も熊すらも惑うている昨今でございますが、いかがお過ごしでございましょう。
私の私邸の猫たちはすでに万全の暖房のもと、ヒーターの前でクルクル回っております。
(何故クルクル回っているのかにつきましては私めの過去日誌をご参照くださいませ。

さて、先日には大河内と共にホットカクテルをご用意させて頂きまして
ご好評を賜りありがとうございました。

特にクッピーにバタースコッチを合わせた品を、影山をはじめにフットマンたちも大層気に入ってくれまして、レシピを尋ねる声も多く頂きまして
12月のカクテルT2シャーベットにも使用することですしと、簡単ながらバタースコッチの作り方をここに記載させて頂きます。

材料は無塩バター25g、三温糖50g、生クリーム50mlです。
(三温糖は他のお砂糖でも結構でして、私は色味を淡くしたいため白砂糖を用いておりました。)

ミルクパンなどの小鍋をご用意いただきまして、まずは無塩バターを鍋に投入し、中火で溶かしてまいります。
ここから最後まで、ひと時とも止めることなくお鍋を混ぜ続けなけれななりません。
焦げ付かぬように鍋底を浚うような混ぜ方が望ましいので、耐熱のゴムベラがベストかと存じます。
耐熱のゴムベラにしませんと溶けてしまい、世にも恐ろしい呪われたマテリアルが出来上がりますのでご注意くださいませ。

バターが完全に液体になりましたら、お砂糖と生クリームを加えてまいります。
結構大胆に入れてしまって構いませんが、混ぜ続けることだけはお忘れなく。

ここから火を弱火にして、じわじわと煮詰めてまいります。
大変甘い香りが充満しますので、食いしん坊のフットマンや猫の襲撃にお気をつけくださいませ。
おそらく5分程度でございましょうか。
(分量を増やすと時間も相応に増えていきますのでお気をつけて)
混ぜておりますうちに、急にとろみがでて蜂蜜のように糸を引くようになり、全体の色が茶色がかってまいります。

ここで別容器に移して冷まし、さらに冷蔵庫などで一晩冷やせば完成でございます。
冷蔵庫で冷やした後は若干固まりますが、軽く混ぜるとすぐにとろけてソースのようになります。
前日のカクテルのように紅茶に加えたり、パンやクッキー、スコーンに塗ってお召し上がりくださいませ。

煮込み時間を長くしてから別容器にて冷やすと、硬度が増してキャラメルやキャンディのようになります。
あえて硬めに作って、自家製のおやつにしてみるのもよろしいかもしれません。
クラッカーに挟んだり、ケーキの飾りに使用なさったりする場合もこちらがおすすめでございます。

最後に。
お鍋を洗うのが大変なので、熱いうちに洗ってしまうか、お湯を入れて煮立ててゴムベラで洗い流してしまうことをお勧め致します。

また、万一にも火加減を誤って吹きこぼしてしまったら‥
ご別邸のキッチンがお菓子の国みたいになりますので、くれぐれも弱火にて慎重にご調理くださいませ。

どうか、甘く暖かな夜をお過ごしいただけますように。

 

きゅうり再び

敬愛せしお嬢様へ

冬の風吹きすさぶ日々、いかがお過ごしでしょう?
お体くれぐれもご自愛いただき、日夜問わず冷えますゆえ温かくしてお過ごしくださいませ。

さて、私事ですが時任はと申しますと、相変わらず天気の良い日は趣味の散策に出ております。
この日はふと、以前にも日誌にしたためた「きゅうりサンド」が突然頂きたくなり、
都心のとあるカフェへと足を運んでまいりました。

このカフェのある街は相変わらず独特でございます。
メイン通りは観光の方々で溢れておりますが、表通りに回りますと急にセレブな人々が行き交い
さて細道から裏路地に入ってみると、流行の最先端を探るようなアートな店舗が立ち並び、
老若男女取り混ぜて只者ではなさそうな奇抜な容姿の方々が屯しておられました。

同じ街でも地域によって雰囲気や人々が変わるのは、いずれの街でもよく有りますが
あまりに細分化が過ぎて、互いの領域に協定でも結ばれているのかと不思議に感じてしまいました。

さて、そんな街並みを超えてお目当てのカフェへ。
大きめのテーブルにご案内いただいたので、折角ですからときゅうりサンドにスコーンもオーダー致しまして、紅茶はすっきりとヌワラエリアを。

しばし待たせて頂きましたら、念願のきゅうりの登場でございます。
これでもかと言う勢いのきゅうりサンドに、相変わらずのサラダ付き
サラダの概念が覆りそうでございます。

 

 

 

 

 

しかしハーブを薫らせ焼かれているパンも美味しく、紅茶との相性も格別で、
当家サロンでもぜひ取り入れたく願ってしまいますが。

‥‥お嬢様、きゅうりお召し上がりになるかなぁ。

そこに一抹の不安を感じてしまう時任でございました。

カフェを辞したあとは、いつも通りに街をフラフラと
気が付けば隣の駅まで散策いたしまして
また良さそうなバーも見つけて参りましたが
それはまたのお話にさせて頂こうかと存じます。

 

興味を惹かれるままにフラフラ致しますと、いくら歩こうとも苦にならぬ性質でございますので
今度一度、丸一日でどこまで歩けるか試してみましょうか‥。

ハロウィンにふさわしいお茶とは

敬愛せしお嬢様へ
ようように秋らしい涼しさが感じられる日も増えてまいりましたね。
このちょうど良い季節がいつまで続いてくれるのかと
月を見上げながらもの思う夜でございます。

当家の装いもハロウィンへと移り変わってまいりました。
そう言いますれば、ハロウィンの祭典もいつから日本に根付いたのでございましょうか
時任が幼い頃には全く見かけない文化でございましたゆえ、
いつのまにか日本に根付いたのは比較的近代のことかと思うのですが。

バレンタインデーが日本に浸透したのは某お菓子屋さんの陰謀だったという説がございますが、ハロウィン文化ももしかして似たような経緯で日本に訪れたのかもしれませんね。

そんなハロウィンの起源には諸説ございますが
東西欧州や米国の幾つかの別なお祭りが融合してしまい、
さらに大衆に愛されるにつれて進化していったという説が有力でございます。

その変化の過程で、現在はカボチャであるハロウィンのシンボルも、ひと昔はウリだったとかナスだったとか、各地の伝承を見ると面白いものでございます。

さて、では最古の記述はどれなのか調べておりましたら。

見つけましたハロウィン起源とされる最も古い記録は、
アイルランドの森の奥、「魔女」と称されていた当時の呪術師・医師のような役割の女性たちが、病魔や不運を追い払うために「ういきょう」という植物を持って踊るお祭りが起源という説がございました。

森の奥でうぃきょうを持って踊る魔女の群れ。

とてもシュールでございます。
ブレアウィッチプロジェクトの真のラストシーンとかに出来そうです。

 

さて、そんな「うぃきょう」とは何者かですが
セリの一種であり、香辛料や薬草として現在でもよく使われております。
英名は「フェンネル」。

おや?と思われたお嬢様はよく勉強しておられますね。
当家のハーブティー「オードリー」に含まれているハーブでございます。

つまり、ハロウィンに飲むにふさわしいハーブティーは、実はオードリーなのかもしれませんね。

ぜひご検討くださいませ。

忠犬の逸話

敬愛せしお嬢様へ
暦の上では夏を過ぎ、あとは秋の気候を待つばかりでございますが、いかがお過ごしでしょうか。

どうか今少し暑さをご辛抱頂き、水分のこまめな摂取など怠りなくお過ごしくださいませ。

さて、水分の摂取と申しますれば
時任はお役目が早めに終わった日などは、庶民の街を散策するのを好んでおりますが
散策し少し喉が渇きますと、直感に任せてここは!というお店にお邪魔する習慣がございます。

お邪魔する先は、お屋敷の参考にしようと瀟洒なバーなどが多くはありますが、直感の導くままにいかにも地元に支えられたような古風なお店にもお邪魔することは多うございます。

そんな一つに、とある忠犬の像がありし横丁の店舗がございます。
昔ながらの横丁でございまして、風情ある屋台風のお店や個性あるお店が軒を連ねております。

そんな一軒にて。
落ち着いた雰囲気の小さなカウンターに、積み重なった歴史を感じさせる良い店構えのこのお店は、当代で4代目となる長らく守られ続けている場所なのだそうです。

そんな店長さんや常連さんの個性やお話も愉快かつ含蓄深く。
今宵はそんな中の一つ「ハチ公のお話」を寝物語にお伝えしたく存じます。

旅立ってしまった主人をずっと待ち続けていた、高名なる忠犬ハチ公。
なんとこのお店の初代は、ハチ公本人というか本犬と親しかったそうで、そんな思い出話が残されておりました。

主人が居なくなってから、ハチ公がずっと主人を待ち続けていたのは事実だそうです。
とはいえ、銅像のようにじっと待ち続けていたわけではなく、当時は都会感の欠片もない下町商店街であった渋谷をウロウロと、一日中パトロールして近隣の方々に愛されていたようでございます。

横丁近辺の飲み屋街でございますと、夜ともなるとおでんや焼き鳥の屋台が立ち並び。
酔客たちと共に、その匂いに誘われたハチ公は、夜になるとこの小路に腰を落ち着けて、夜を楽しむ酔客たちをじっと眺めていたそうでございます。

そうすると酔客たちがハチ公に焼き鳥やらおでんやらをなげあたえるものですから、ハチ公は特に焼き鳥が大好物になっていったようで、晩年、ハチ公が息を引き取った後に体内から何本もの焼き鳥の串が発見されたなんて話があるぐらいでございます。

もっとも店主さんや常連客の皆さんは、いつも通りに寝転がって焼き鳥を貰ってる野良犬が、主人の帰りを待ち続けてる忠犬だなんて知りもしなかったものですから、
ハチ公の忠義が当時の新聞に載り、人々にもてはやされ、ついには渋谷駅前に銅像が立ってしまった日には随分と驚いたそうでございます。

「あいつぁ、ただの焼き鳥好きの人懐っこい犬ですよ。」
そう言って笑っていたという店長さんの言葉が、生きた歴史を感じさせて大変印象深くございました。

帰らぬ主人を待ち続けていたハチ公も。
悲しい日々ではなく、最後の時まで町でそれなりに楽しく暮らしながら待っていたというならば

飼い主氏も少しは胸を撫で下ろして、ハチ公を迎えることが出来たのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

なお、うちの猫は、帰った時に爆睡していると
起きた時に慌てて「ずっと起きて待ってましたよ」という顔をして誤魔化しにきます。

再挑戦・究極のマティーニ

敬愛せしお嬢様へ

当家でカクテルを学ばんとする若人たちもありがたきことに代々増えまして、
彼らが新しい発想の良き品々をお嬢様も元にお届けすることも多く、
時任は彼らの背を見守りながら、たまに好きにカクテルを作らせて頂く日々でございます。

余裕が出て参りますと、カクテルという文化への探究心もまた溢れるもので
時折、お外のお屋敷に勉強に伺いましたり、別邸でボトルを並べて研究したりと、そんな機会も増えてまいりました。

その一端として、幾度か挑戦したことがあり、また挑んでみたいと思っておりました「究極のマティーニ」というものを試してみました。

「究極のマティーニ」と呼ぶべき条件が如何なるものかは、バーテンダー個々に異なるとは思います。
極限までドライに仕上げた、チャーチル卿のマティーニを究極と呼ぶ者もおりますし、
製法を問わず、そのステア技術のみで究極と言われる味を目指すものも少なくありません。

その中から今回は、戦後昭和の日本のバーで生まれた「究極のマティーニ」を作ってみることに致しました。

この製法の考案者は、当時のバーテンダー大泉洋さん。
かの名俳優さんと同名ですが残念ながら別人でございます。

まず冷凍庫でジンをボトルごとよく冷やします。
ジンは敢えて最も古典的なオランダのジンを使用いたしました。
合わせるベルモットワインは冷蔵庫でよく冷やし、どちらも数日しっかり冷やしました上で、
ミキシンググラスに注いで氷を入れずに静かに混ぜ合わせます。
(大泉氏は大量生産のため、ボトルに材料を詰めて振っていたそうですが)

混ぜ合わせた液体を再び冷凍庫に入れ、また2日ほど冷やします。
そして2日後に取り出した液体をグラスに注ぎ、頂くという製法です。
単純ですが何とも気の長いレシピでございます。

試飲してみたところ、やはりよく冷やしたジンのとろみと甘味に、ジュニパーベリーの爽快さと、ベルモットの瀟洒な香りが濃厚に混じり合って、実に良いお味でございました。

何かの折に、お嬢様の元へもお届けできたらと思います。
非常にアルコールが強いので、おやすみ前にお飲み頂くのがお勧めではございますが。

 

数日の仕込みが肝でございますが、
お屋敷で仕込んだら皆の試飲と称したつまみ飲みでほぼ無くなりそうでございます。