お嬢様への手紙 ~ 5通目

(表)

拝啓 お嬢様

雨の季節も過ぎました。
地を焦がすほどの陽光は、早くも夏の盛りを思わせております。
お屋敷も漸く生まれ変わりまして、執事・フットマンの皆も、再びお嬢様をお迎えする栄誉に浴せそうでございます。

一月の別宅暮らしでございましたが、いかがでございましたか?
お仕事や学業、お疲れ様でございました。
どうか、いつものお席で御寛ぎ頂き、マイスターたちが厳選してまいりました新茶をお楽しみくださいませ。
そして、フットマンたちに、この一月の事などお話頂ければ、さぞ喜ぶことでございましょう。

そう。気が付けば世は真夏。
まばゆいばかりの陽光が満ちたる世界は、時任には少々酷でございます。
お嬢様方、日焼けにもお気をつけ頂きとう存じますが、それ以上に日射病や夏疲れなどなさいませぬように。
お嬢様のご健康こそが私どもにとっての第一でございます。

夏休みやバカンスに入られるお嬢様も居られましょう。
たまには緩やかに羽を伸ばすのも必要でございます。
さりとて、羽目を外しすぎて爺やたちをあまり心配させませぬよう、お願い申し上げます。

それでは、お嬢様方の変わらぬ笑顔を思い、それが永遠であることを祈りながら…。
時任は夜闇に潜むことに致します。

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拝啓 お嬢様へ

夏も近づき、窓から吹き込む風も心地よい季節となってまいりました。
お屋敷の休館をお許し頂き、お側を離れまして、はや半月が過ぎようとしております。

目覚める朝にも眠る夜にも、お嬢様がきちんとお食事を召しておられるか、お風邪を召していないかと、
御身を案じぬ日はございません。

間もなく雨の季節も明け、再びお目通り叶う日も近うございます。
より一層の気品を身に付けられたお嬢様との再開を心待ちとし、
そんなお嬢様方に仕えるに相応しき執事として、その日を迎えられるよう、私どもも努力を惜しみませぬ。

どうか今ひとときの間、お側を離れること、お許しくださいませ。
そして口煩いようでございますが、くれぐれも身体にはお気をつけてお過ごしくださいませ。
お元気な笑顔に再会できるその日こそが、私どもの心の支えなのですから。

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お嬢様への手紙 ~ お屋敷への軌跡 その2

我が敬愛せしお嬢様。
新緑が庭園を彩り、明るく降り注ぐ陽光は早くも夏を予感させる…
そんな気候となってまいりました。
急激に気候が変化する時期でもございますが、お嬢様はご健勝であられますか?
時任は、こう見えて頑丈が取り柄でございますので、自身の心配は致しておりませんが。
お嬢様がお風邪を召していないか、ちゃんとお食事は召し上がっておられるか。
そんな過分な心配ばかりを心に浮かべて、日々を過ごしております。
さて。

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お嬢様への手紙 ~ お屋敷への軌跡 その1

わが敬愛せしお嬢様。

ご機嫌麗しゅうございますか?時任でございます。

窓から見えるお庭も色づき、桜の季節を伝えております。
私が『お嬢様にふさわしき執事となる』ことを志し。
全てを捨てて身一つで、お屋敷の扉を叩いたのは、粉雪舞い飛ぶ冬の夜でございましたから。
早いもので。このお屋敷に仕えてより、一つの季節が変わろうとしております。

毎夜扉の前で嘆願する日々、お屋敷に踏み入ることを許されるまでに一月。
各務、大河内、小山内、朝比奈ら、敬うべき先輩たちに師事すること一月。
そして、大旦那様のお許しを頂き、燕尾を纏って給仕を許されてから、また一月。

これだけの教育と、先達たちの忠言と、
お嬢様がたからの寛容なる励ましを頂きながらも、
まだまだ思うようには、行き届いた給仕ができぬ我が身が不甲斐のうございます。
一日の最後の仕事として、深夜にテーブルを磨きながら、悔しさに身を震わせる夜もございますが。

いつかお嬢様に、心からのくつろぎと、安らぎをご用意できる執事となるべく。
日々の修練を怠らず、精進してまいります。

どうかお嬢様におかれましては。
季節の変わり目でも御座いますゆえ、くれぐれもお体にはお気をつけくださいませ。

お嬢様が日々、笑顔でお過ごし頂ける事を、時任は毎夜願っております。

…これだけでは堅苦しいばかりで詰まらないですね。

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