番外日誌

拝啓、我が敬愛せしお嬢様。

先日、珍しく別館ブルーローズの番に立たせて頂いたところ、明るい場所に長居したせいか肌がピリピリと痛くなりました。どれだけ太陽と仲が悪いのかと、リアルに悩みつつある時任でございます。

さて、今宵はいつもの小咄の筆を一時置きまして、「カクテル」などについて語らせて頂きます。

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番外編・同族狩りの伍/架空の敗北/確率の研究家は全ての勝利者たりえるのか/朝陽を賭けた遊戯

拝啓、我が敬愛せしお嬢様、真夏を思わせる暑い日々が続いておりますが、ご健勝にお過ごしでございましょうか。
先日までまだ桜が舞っていたような気が致しますのに、何とも季節の巡るのは早きことにございます。

過ぎた季節に驚いてしまうほどに、忙しく充実した日々を過ごさせて頂いているのかと思うと、有難き限りにございます。
季節の移り変わりも、世俗の流れも、人々の移ろう様も誠に慌ただしい事でございますが、私共はいつでもお嬢様方がサロンにお戻りの際にお寛ぎ頂けますよう、
サロンを磨き、カップを磨き、人を磨き、万全の備えでお待ち申し上げております。

この身が御傍に在れる限り、僅かでも御役に立てますように。

それはそれと致しまして。
またつらつらと駄文をしたためてございますので、お暇なときか眠れぬ夜にでもご覧くださいませ。
目を閉じ羊を数えるよりは、迅速に眠りに墜ちれるのではないかと自負しております。

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番外編・同族狩りの四/千の戦略家/秘密の書斎/塵は塵に、灰は灰に

我が敬愛せしお嬢様。いかがお過ごしでございましょうか。時任でございます。

三寒四温とはよく言ったもので、まるでチェスボードのように暖かい日と肌寒い日が交互に続いておりますね。

気がつけば梅の時期も過ぎ、やがて桜が咲くことでしょう。

桜が咲いたら、皆でお花見など致しましょうか。

美しく散り行く桜を惜しみ、そしてまた来年に咲き誇るだろう花を想う。
そんな桜が私は大好きでございます。

桜の花粉症なので、意味も無くボロボロ泣きながら桜を見ておりますが、そこは気になさらないで下さい。

悲しむことなどございません。
梅も桜も、また来年に、また可憐な花をきっと咲かせてくれるのですから。

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番外編・同族狩りの参/終焉から始まる回想/目隠しのままの社交劇/ハーブとワインと老人と子供/同趣味と知れれば会話は弾む

我が敬愛せしお嬢様へ

気がつけば暦は二月を迎えていたようでございます。
凍てつく様な夜は空気も澄み、星が大変美しいようでございますが、
寒さと乾燥ゆえか、世には良からぬ風邪も流行っているようでございますね。

どうぞ、私の調合する怪しい風邪薬の餌食となりませんように
くれぐれも、お風邪にはご注意くださいませ。
夜には、暖かいベットに早めにお入り頂いて、お身体を冷やさないようお努めくださいね。

爺やにも口煩く言われて居りましょうが、これもお嬢様の輝く笑顔を護るため。
何卒、ご自愛のほどをお願い申し上げます。

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「番外編・同族狩りの弐/話は進むどころか遡る。/応接間において一執事が行った暇つぶしの代償/銀と紫の一族/月下の似姿/そして終点は前章とと同じ」

我が敬愛せしお嬢様。
思うままに筆を振るうのは楽しいものでございます。
ただ、往々にしてございますのは。
筆を振るっているつもりがいつしか、筆が物語に支配され。
まるで思いもしない物語の中へと筆を持つ私自身が連れ去られてしまうこと。

私はいつ、この物語の中から帰還出来ましょうか。
あるいはこのまま、どことも知れぬ地を彷徨うが定めなのでしょうか。

せめてこの拙き駄文が、最愛なる貴方の退屈という病を、ひとときでも癒す術となるなら。
このまま帰還叶わぬとも、本望でございます。
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欄外/三時四十一分の誓約

我が敬愛せしお嬢様、時任でございます。
真夏の日々も終わり、静かな秋の日々が近づいております。
これからまた、気候が変わってまいりますゆえ、お身体の具合を崩されませんよう、日々お気をつけくださいませ。
そして、味本や谷が狩り捕って来る秋の風味を楽しみに、元気な笑顔でお戻りくださいませ。
時任たちはいつでも、お嬢様方のお戻りをお待ちしております。

さて

それではいつもの、寝物語代わりの戯言でございます。
今回は閑話休題的に、ちょっとした罪の告白をさせて頂きます。
私、お嬢様方を謀っていた事が一つございます。
お見送りのときや、ご予定を申し上げるときなどに、私がお嬢様の前で確認している懐中時計でございますが。

…実はあの時計は、動いておりません。

実のところ、時間は常に把握しておりますので、懐中時計は無くとも執務に支障はないのでございます。
ですが、当家執事としての様式上、懐中時計なしというわけにもいかず、形式として動かぬ懐中時計を装備しております。

もし機会があれば、一度ご覧くださいませ。
三時四十分。その時刻から一秒とも変わる事無く、古びた小さな懐中時計は、私のポケットの中で眠り続けております。

幾度も、折角所持しているのだし、街の時計屋に持っていき直そうかと思いました。
しかし、それを思いとどまった理由は、この時計が前任ハウスステュワードから賜った物であることに起因しております。

私がまだ執事も拝命していない、見習いとして勤めておりましたころ。
執務室の整理をしていたら転がり出てきた、古びた懐中時計。
その机を使っておられた御方に、これはいかが致しましょうか?とお尋ねしたところ、「もう動かなくなって、新しい物を頂いているから」「なんだったら、君が使うといい。」と冗談交じりに私の手にお戻し頂いた時計なのでございます。

言霊…と言えば極端かもしれません。
しかし、人は時に無意味なまでに、些細な言葉をいつまでも忘れぬことがございます。
私は、この手にこの時計を受け取ったときに頂いた言葉を、忘れることはできません。
「代わりに、立派な執事になって、お屋敷を護ってくださいよ。」

今はその御方も去り。雪村・豪徳寺と言う新たなハウスステュワードにも就任頂き。
当時は黒ベスト姿のページボーイだった私も、身の程過ぎたことに執事にお取立て頂き、グルームオブチェンバーなる御役まで頂戴しております。

それでも。
私はあの日に賜った言葉に足る執事になれるまで…お屋敷を。皆を。揺ぎ無く護る執事となるまで。
この時計を動かすことはできないのです。
恐らくはただの意地でございましょう。そんな理想論のような執事には、辿り着くことすら難しいのかもしれません。

それでも、私はそれを諦めず。
苦難在りしときにはそっとポケットの中の懐中時計を握り締めて、日々の執務に挑んでいきたく思います。
だからお嬢様。
どうか、この動かぬ懐中時計を持ち続けることをお許しくださいませ。

いつの日にか必ず。
胸を張って、この時計を動かすことをお約束いたします。

理想の給仕を求めてこの地に流れ着きました。
何者になろうとも。何処へ流れ行こうとも。その意思は変わることはございません。
いかなる運命の変転に流されようとも、いかなる不条理な障害に妨げられようとも。
ただ、その一心のみを愚直に貫かせて頂きます。

この時計が三時四十一分を指すとき、より豊かな喜びを、より安らぐ寛ぎを、お嬢様方にお届けできるように。