お豆腐

敬愛せしお嬢様へ

時任でございます。
少し日の暖かさを感じ取れたかと思えば、また底冷えする夜が訪れたりと、
一足とびに春の陽気とはいかぬ日々が続いてございますね。

先日、お外へ食事に出ました際に見かけた一品にヒントを受け、
冷えます夜に一寸、杯の隣に添えたい一品をお作りしてみました。

時任はアヒージョが好きです。
海老にキノコ、お魚、最近はアボカドなども面白うございますね。
ニンニクやアンチョビーをしっかり効かせたものが特に好みでございますが、
しかしながらあまり濃厚に致しますと、一口二口は良うございますが段々重くなってまいります。
そこで、とある馴染みのバーで供していたものにヒントを受け、
素材としては淡白な物をアヒージョにしてみました。

豆腐です。

まずはオリーブオイルをゆっくりと弱火で熱しまして、鷹の爪とスライスしたニンニクを温め、香りをじっくりと引き出します。
よく香りが広がった頃に、アンチョビーをほぐして投入し、お味をよく馴染ませましょう。
さて。
そこへ軽く刻んだ木綿豆腐を投入し、さっと温めます。
パセリを散らして、はい出来上がり。

あっという間に完成です。簡単でございましょう?
ワインの栓を抜き、グラスを用意している間にさっと作れてしまいますよ。

さて、味見をしてみましょうか。
淡白な豆腐に、熱々のオリーブオイルが絡んで、濃厚なのに淡白な味わいでございます。
アヒージョと言うより、地中海ver.湯豆腐といった感覚でございます。

…このままでも悪くはありませんが、少々物足りませんね。

そこで。
お隣のコンロで、おもむろに葉物を(この時は白菜に致しました)刻んで、お醤油・料理酒・お塩・白だしで味付けをして軽く煮込みます。
煮立ったら、水で溶いた片栗粉をそこに加えて、トロっとするまでよく混ぜながら煮込みましょう。

お分かりですね?
このトロッとした液体を、先程の豆腐アヒージョに流し込めば、
「あんかけ湯豆腐アヒージョ」の出来上がりでございます。

熱々のお豆腐を、オリーブオイルに絡めても、餡に絡めてもそれぞれ個性の違うお味が楽しめまして、
さらにこれをミックスすると、和のような洋のような、複雑な美味しさを楽しんで頂けます。

冬の夜に一献お召しになる時は、ぜひ暖かな一品をお側にお添え下さいませ。

良き夜をお過ごし頂けますように。

休日について徒然と

敬愛せしお嬢様へ

暦の上の夏は終わりましたが、未だ夏の残滓色濃く残る日々、如何お過ごしであられますか?
九月の暑さは真夏の暑さよりも体に堪えると申しますゆえ、水分塩分こまめにお摂り頂き、調子を崩されないようご自愛くださいませ。

さて、私事ではございますが。
時任めお暇を頂きましても余暇の過ごし方を知らず、結局執務を片付けて過ごしている…と思われがちでございますが、じつは思いの外に多趣味でございます。

ひとつはゲーム。遊戯。
ピコピコ光輝く若者が好きなあれではなく(英国パブの片隅に転がっていそうな古風な筐体は好みではございますがいわゆるカードやボードゲーム、ほか様々な知性を振り絞る遊戯を愛しております。

誤解のないように申し上げますが、賭け事は致しません。常勝無敗を誇るカードゲームでも、エール1杯賭けるだけで必ず負ける、無類の勝負弱さを自負しております。

ひとつは絵画。油絵を好みますが時間の都合もあり、最近は色鉛筆を用いた簡単なスケッチに良く出掛けております。
最近の色鉛筆は良くできたもので、湿らせたり加圧したりすることで、滲みや強調などの表現が簡易に出来て、ありがたい限りでございます。

そしてひとつは酒。こう言うとただの飲んだくれでございますが酒類の文化を深く愛しております。
余暇には勉強も兼ねて、お外の世界の様々なバー、パブ、レストランを巡っておりして、
時にはテーマに基づいて食事をしてみるのも面白いものでございます。

例えば『ドイツ』をテーマと決めました。
そんなに肩肘を張ることはありません。娯楽なのですから、自身の思うままで良いのです。
そのため。
このテーマでソーセージをはずすなどあり得ないと思いますが、気分ではないので、外しました。

代わりにドイツの黒ビールと、そしてポークレバーパテ。
ポークパというと、風味の濃いもったりした風味を思われると思いますが
このとき頂いたものは、クリームと茹で玉子の白身が合わせられていて淡白で上品な風味でございました。
苦味爽やかで濃厚な常温黒ビールと、とても相性がよろしゅうございます。

常温?左様でございます。キリリと冷やした日本のビールはとても良いものでございますが、
実はビールを過剰に冷やす習慣は日本独特のものであり、それそれのビールに適した温度で頂くのが欧州ではスタンダートでございます。
この黒ビールの適温は9度とのこと。ごく自然な程度の水温が、苦味の中の甘味など複雑な風味を引き立てて、
そして舌に残った苦味溶け合う、クリーミなーレバーパテの見事なこと!
しっかり焼かれた薄切りパンの食感や香ばしさも、実に良い組み合わせてございます。

そしてドイツの食卓に欠かせないザワークラフト。しゃくしゃくと酸味ある浅漬けのキャベツを噛めば
魔法のようにお口の中がリセットされて、また一口めと全く同じ感動を堪能できるのです。

ああ、やはりソーセージも焼いて頂くべきだったか。
いや、それよりもドイツをテーマと標榜するなら、まずはシュタインヘイガーなどのジンをあって胃を暖めてから食事にするべきだったかな。

ベリーの煮込みにバニラをかけた不思議なデザートを頂きながら、美しい婦人との別れを惜しむかのように想いを馳せ、テーブルにコインを置いて食卓を後に致しました。

次は藤原くんを連れて来ようかな。
ちょっと苦いビールも飲めるようになってきたし、音の宴の後に水瀬くんを連れてきても良さそうです。
いやいや、ブルームーン全員でお邪魔してみるのも楽しそうですね。

よい場所を見つけたあとは、次の休日が更に楽しみになるのものです。

それまでまた、お嬢様がたにも良き余暇をお過ごし頂けるよう、一頑張りするといたしましょう。

時任でございます

敬愛せしお嬢様へ
師走から新年へと、世俗は慌ただしく在るようでございますが、
お嬢様におかれましては、ご健勝にお過ごしであられますか?

どうぞ世俗の浮き波などに心さらわれることなく、
のんびりと紅茶を楽しむ日々をお過ごし頂ければ、幸いでございます。

さて、使用人たちもそれぞれに、多忙に勤めてはおりますが、
例え獄卒のごとき振る舞いを求められる環境にあったとて、
無理にでも、口許には微笑みを、心には余裕を、行動には優雅さを持つべきが紳士というものでございます。

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小さな強盗団

敬愛せしお嬢様へ

時任でございます。
嵐の日々が過ぎましたら、急に冷え込んでまいりましたが、お嬢様におかれましては御健勝にお過ごしであられますか?
この季節は、これでは暑かろうと思われる程度でお出かけ頂くのが良うございます。
スカーフやカーディガンなど、ちょいと羽織るものをお持ち頂くのも寛容でございますゆえ、どうかくれぐれも暖かくお過ごしくださいませ。

さて、ちょいと日を遡ったお話となりますが。
時任は、先日不覚にも、強盗団に遭遇してしまいました。
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